平成20年度「経済白書」より

平成20年度「年次経済財政報告」(いわゆる経済財政白書)より、投資という観点から興味深いトピックを紹介する。
(2008年7月執筆)

交易条件の悪化による海外への所得移転は誰が負担したか(P.65)

この数年、日本の交易条件は悪化している。
これは、輸出価格が横ばいであったのに対し、輸入価格が上昇したことによる。
輸入については、原油・や原材料費価格の高騰により、大きく上昇した。
一方、日本の輸出は、価格競争力を維持するために、ドルベースで輸入価格の上昇を転嫁することができなかった。

では、この交易条件の悪化による海外への所得移転は誰が負担したのだろうか。
この問いの答を、白書では、最近(2004-2007年)と第一次石油ショック時(1972-1974年)を比較しつつ説明している。
第一次石油ショック時には、最終需要価格が2年で42.7%上昇したのに対し、最近は3年で0.6%の上昇でしかない。
第一次石油ショック時のインフレでは、労働者賃金の上昇も同時に発生している。

この理解の上で、原油価格高騰等の国内での負担が誰によって負われたかを検証している。

第一次石油ショックでは、海外への所得移転の最終需要価格におけるシェアは4.6ポイント拡大した。
利潤等のシェアは7.6ポイント縮小し、賃金のシェアは3.0ポイント拡大した。
つまり、第一次石油ショックでは、海外への所得移転は企業により負担され、家計には負担がなかったことになる。
一方、最近は、海外への所得移転のシェアは3.6ポイント拡大したが、賃金は1.9ポイント、利潤当は1.7ポイントそれぞれシェアを縮小している。
つまり、最近の海外への所得移転は、企業と家計が負担を分担したことになる。

スタグフレーション入りの可能性は小さい(P.91)

日本におけるスタグフレーション的な状況としては、第一次石油ショック後が挙げられる。
輸入インフレがホームメードインフレに転嫁し、激烈なインフレを引き起こした。
インフレ終息のための金融引き締め、公共事業の抑制、世界的な景気後退により、需要は減退した。

現在は、ようやく消費者物価がプラスに定着しつつあるものの、景気は停滞し、賃金も伸び悩んでいる。
このような中で、輸入インフレがホームメードインフレに転嫁される懸念は小さい。
したがって、現在の日本でスタグフレーション的な状況に陥る可能性は低いと考えられる。

信用リスク評価(P.101)

理論の世界では、投資の基本原則の一つが分散投資である。
その意味で、証券化や2次証券化は理に適った営みである。
しかし、サブプライム問題では、それが原因の一つとされた。

経済白書では、
過剰流動性とリスク評価の緩みの中で、
リスク分散はできても、リスク総量の軽減はできなかった
と指摘している。

分散投資の限界を思い出させてくれる指摘だろう。


「デカップリング」論(P.101)

日本が「最大の消費地」米国に依存している以上、デカップリング論については慎重な見方をすべきという。

デフレ脱却には至らず(P.101)

原油・原材料価格が高騰しても、置かれた経済状態により、値上げは一部品目にとどまっている。
したがって、現時点では、
需給が引き締まる中での賃金と物価の好循環という形でのデフレ脱却
には至っていないとする。


リスクテイクしない日本(第2章)

企業も家計もローリターンに甘んじている。
・リスクが取れないボトルネックは何か
・リスクテークしないからローリターンなのか、ローリターンだからリスクテークしないのか

日本企業のROAは米国企業のそれに比べ、低水準で推移している。
日本の上場企業を母集団として検証すると、ROAの標準偏差が大きい企業ほどROA分布が高い位置にある。
つまり、リスクテイカーが高い収益を上げていると解釈される。

日本は、同業種間のM&Aの割合、開業率、VC投資額でも世界的に低位にあり、ここでもリスクテイクの少なさを想起させる。

高度成長期?80年代のマクロ経済好調時にはうまく機能した、安定株主、メインバンクシステム、長期雇用などの企業特性がマイナスに働いている。
成長機会が多くは存在しない環境で、これらの企業特性がリスク回避を誘発している。

投資対象としての日本株の魅力についても検証する。
日本の株式市場のシャープレシオはアメリカの2/3しかなく、英国・ユーロ圏と同等であり、これが日本の家計の安全資産志向が説明できる。
リスク資産への投資にかかわる税負担(法人税と配当課税)でみると、ドイツやフランスより低く、アメリカや英国と同等である。

家計から企業への資金の流れは、日本では銀行経由が中心となっている。
一方、リスクマネーの供給では、投資信託が重要な役割を負っている。
米国では、確定拠出年金→投資信託→リスクマネーの金額が大きく、投資信託に流入する資金の4割が確定拠出年金からである。
日本では確定拠出年金が未発達である。
公的年金は企業年金より債券での運用が多く、リスク資産への運用比率が大きい企業年金でも対外証券投資が多いために、国内株式への資金は限定的だ。

 


高齢化の経済構造への影響(P.184)

ライフサイクル仮説によれば、一般的には
高齢化により貯蓄率が下がり、
・家計消費のウェイトが増加する一方
・設備投資のウェイトが相対的に下がる
とされる。

OECDの推計では、2050年にかけて
・保険・医療が増加: 加齢にともなう需要
・電気・ガス・水道が増加: 自宅にいる時間が増える
・交通・教育が減少: 通勤がなくなり、子供が減少

総務省ではさらに
・リフォーム、国内パック旅行、火災保険が増加
・外食、家賃が減少
を加える。

一般に、高齢化はサービス化の進展につながる。


総括(P.229)

短期のリスク
・米国経済の減速
・原油・原材料価格の高騰
・為替レートを含む金融資本市場の変動

中期のリスク
・日本経済の脆弱性: 世界経済に左右される。リスクテイク能力の低さ。
・脆弱性の克服には、グローバル化への積極的取組が必要。

長期のリスク
・高齢化・人口減少による経済成長への影響。