【メモ】最近よく引かれる「日米構造協議」について

かつて、日本経済が米国の圧力の対象だったころ、日米構造協議というものが行われた。
日本の対米貿易黒字の縮小をめざしたもので、1989-90年、まさにバブルの最終段階に行われたものだが、今思えば、これが日本の財政悪化を加速した面がある。

米国が日本の公共投資の拡大を要求

本協議の最終報告の中で米国は、
 日本は輸出産業へ投資するより、公共投資をすべき
と要求した。
国内の民間需要を供給力が上回る分について、輸出ではなく公共投資に当てろという話だ。
まさに猿知恵の類ではないか。
具体的には、GNPの10%を公共事業に配分するよう要求した。
これに対し、海部(自民党)内閣は10年間で430兆円という「公共投資基本計画」を策定した。
(世間では、この意思決定に小沢一郎元自民党幹事長が強く関与したと非難する向きがあるが、真偽のほどは知らない。)
その後、村山内閣の時にさらに200兆円を積み増ししている。

もしも効果の高い投資であれば、資産・負債の両建で増加するのだから、純資産への影響は大きくないという見方もあるにはある。
しかし、自然体での公共投資に積み増しをするという行動は、どうしても効率の低い投資を生む。
(限界効用は逓減する。)
結果、国のバランス・シートが悪化したと言って間違いではあるまい。
また、収支という面から言えば「財政規律」の歯止めを取り外す行動であったことも間違いない。

経常収支と貯蓄の関係

GNPの定義式を思い出そう。
 所得Y =消費C + 投資I + 政府支出G + (輸出EM – 輸入IM)
また、
 Y = 貯蓄S + 消費C + 租税T
よって
 S – I = (EM – IM) + (G – T)
つまり、
貯蓄超過 = 経常収支 + 政府の財政赤字
となる。

日本が貯蓄超過を維持するには、経常収支+政府の財政赤字をプラスに維持する必要がある。
残念ながら、政府の財政はいっぱいいっぱいのところに来ているから、これは減少し、将来的にはマイナスに転じるだろう。
(少なくとも、そう願いたい。)
とすると、経常収支が赤字化するかどうかと貯蓄超過が維持できるかということが、(少なくとも事後的に)深く関係することになる。
政府として貯蓄超過を維持するには、財政赤字を容認するというようなおかしな関係になってしまう。
(皮肉にも、これこそ日米構造協議の論拠である。)

国全体として投資超過に転じるとはどういうことか。
それは、国の財政を立て直すために、税金を増やし(または国の支出を抑え)、その分、国民が蓄えを取り崩すということに近い。
何が原因で、何が結果になるか読みにくいが、何かが起こるらしい。
一方、金融市場の需給を考慮すれば、近い将来もしも日本が貯蓄超過から投資超過に転じれば、国債市場などの大きな影響がでることは言うを待たない。