浜町SCIコラム

レックス事件の東京高裁決定を読む(4)東京高裁の判断

両社の主張に対して、東京高裁は、どのような決定を下したのか。
長くなるが、論点を紹介しよう。

1 取得価格の判断基準: 公正価格には「期待」の価値も顧慮すべき

一般に、譲渡制限の付されていない株式を保有する株主は、売却か保有かを自ら選択できる。
よって、株主は株価の上昇に対する期待を有し、この期待は、株式の有する本質的な価値として、法的保護に値する。
一方、全部取得条項付種類株式について、強制取得が行われると、株主は上記の期待を喪失する。
このため、公正な価格を定めるには、期待を評価した価額をも考慮すべき。

以降、裁判所は、
 公正価格 = 客観的価値 + 期待の価値
という2本立てで議論することになる。

2 買取日における株式の客観的価値

(1) 算定方式: 近接した期間の市場株価の平均とすべきで、現レックスの試算額は採用できない

旧レックス株式は、買取日2007年5月9日の11日前の4月29日に上場廃止となった。
上場は廃止されていたが、近接した一定期間の市場株価を基本に、その平均値をもって客観的価値とみるのが相当。

① 現レックスは、
 ・修正簿価純資産方式: 27,000円
 ・類似会社比準法: 4,000円(1か月)、5,000円(3か月)
という試算額を提出したが、これは、デューディリジェンスの上でAP8が決定した230,000円とかけ離れている。
これら数字を、市場株価方式と対等の割合で考慮すべきというには、多大の疑問がある。
② 継続企業としての旧レックスの企業価値を評価すべきこと。
業態からして、企業価値は収益力を評価すべき部分が大きいこと。
③ 類似会社比準法で用いられた比較対象の類似性に多大の疑問があること。

よって、現レックスによる試算額を採用することはできない。

(2) 市場株価平均値による算定

ア 2006年11月10日にTOBを公表しており、それ以降の株価は算定にあたり考慮しない。

イ 2006年8月22日~11月10日の市場株価を算定基礎とすることの当否

(ア) 8月21日プレスリリースの問題点

業績予想の下方修正の理由とされた損失の中に、長期前払費用として資産計上されていた外食事業に係るマーケティング・データやノウハウ等の資産評価を見直し、資産計上を止めたことによる特別損失1,704百万円があった。
これについて、裁判所は問題視している。
現レックスは、監査法人が資産計上を認めなかったためと主張し、執行役員の陳述書を提出した。
しかし、それ以外に、その合理性を示す証拠はなく、裁判所は、疑問を呈したものだ。
CVS事業での広告宣伝スペース付タバコ販売棚のための前渡金200百万円の貸倒引当金繰入についても同様とした。
また、加盟店契約の解除による解除損358百万円や、固定資産除却損151百万は前向きなリストラ費用であったのに、そのトーンがリリースから伺われないと指摘。

旧レックスの社長は、
 ・2006年4月ごろからMBOを考え、
 ・6月にはアドバンテッジパートナーズと接触、
 ・8月9日にはAP8が設立され、
 ・11月10日にTOBが公表された。
8月21日の段階で、本MBOは相当の確実性をもって具体化していたと推認される。
よって、下方修正は、決算を下方に誘導することを意図したことが否定できない。

また、リストラ費用ばかりを記載し、中長期的な事業計画の説明が十分でなかったため、実態よりも悲観的に受け取られることとなった。

経営者が不確実なMBO実施のために株価を低く誘導することはありえないという、現レックスの主張も、MBOが相当の確実性をもって具体化していたという推認から、あてはまらない。

(イ) 2006年8月21日プレスリリース後の旧レックス株式の市場株価は企業価値を適正に反映していない

リリース後、株価は下落し、9月26日には終値が144,000円となった。
その後、上昇に転じ、TOB公表の11月10日の終値は219,000円まで回復した。
(ア)で指摘したとおり、
 ・プレスリリースした特別損失の中には、当中間期において企業価値が毀損したわけではないこと
 ・株価が回復するための特段が材料がなかったこと
から、この下落はプレスリリースに市場が過剰反応したと認定できる。
よって、この期間の株価は、旧レックスの企業価値を適正に反映してはいない。

(ウ) 8月21日プレスリリース以降の株価も考慮すべき

当プレスリリース自体が適法でない会計処理であるとか、恣意的で合理性を欠くものであるとか、株価操作を意図したとか、認定できるだけの証拠はない。
実際に、旧レックスは、当時、厳しい経営環境にあった。
したがって、8月21日プレスリリース以降の株価を一切考慮しないというのも不適切だ。
よって、この期間も含む、期間を通じて市場株価を平均するのが相当だ。

ウ 2006年8月21日以前の市場株価も平均値算定に算入すべき

現レックスの主張を退け、この期間も平均に算入する。

8月21日以前の株価には、
 ・21日のプレスリリース以外の情報が織り込まれている
 ・プレスリリース以降に企業価値が毀損したわけではない
ことを考えれば、平均に算入することが相当でないとは言えない。
また、TOBが公表され、TOB価格が市場価格に影響を与えることがなければ、市場株価はさらに上昇していたかも知れない。

エ 平均値算定の基礎となる期間は6か月、客観的価値は280,805円

同時期のMBOでは、
 ・TOB公表前の3-6か月の市場株価の単純平均
 ・プレミアム: 16.7-27.4%
をTOB価格としている。
日本証券業協会による「第三者割当増資の取扱いに関する指針」では、
 ・原則、決議の直前日の価額に0.9を乗じた価額を下限
 ・直前株価・売買状況によっては、最長6か月の平均に0.9を乗じた価額以上とすることができる
とされている。

旧レックスの直前株価・売買状況を勘案すると、短期の平均は適切でない。
TOB公表の11月10日の直前日からさかのぼって6か月平均である280,805円が相当である。

オ 買取時当時の企業価値増大は、客観的価値に含めない

買取日当時、旧レックスは構造改革・リストラにより、企業価値を増大させる過程にあった。
そこで、少数株主は、企業価値増大を客観的価値に算入すべきと主張する。
しかし、その期待は、すでに市場株価に含まれていると考えるべきであり、採用できない。

一方、現レックスは、旧レックスの業績が悪化したことを理由に、株式の客観的価値が、TOB公表前日までの1か月平均である202,000円を超えることはありえなかったと主張したが、
 ・旧レックス株価は、一度下落した後、材料がないのに回復する途上だった
 ・TOB公表のプレスリリースなどでは、損失は一過性のものと説明されていた
ことを鑑み、現レックスの主張は採用できないとした。

3 株価上昇に対する期待の評価

(1) 現レックスが事業計画・株価算定評価書を提出しないため、裁判所の裁量で評価額を決定

MBOにおいて実現される価値は、
 <1> MBOを行わなければ実現できない価値
 <2> MBOを行わなくても実現可能な価値
に分類できる。
<2>の価値は、基本的に株主に分配すべき。
<1>の価値は、取締役がリスクを取りながら、経営改善に努力することを勘案し、株主と取締役に分配されるべき。

強制的取得により失われる株価上昇期待の評価も、上記の2つの価値の分配の考え方に従い、裁判所が評価額を決するのが望ましい。
このことは、
 ・TOBを行う企業がデューディリジェンスを行い、TOB価格を決定すること
 ・MBO後の中長期的な経営計画等を株主に説明して判断を仰ぐこと
からも裏付けられる。

しかし、現レックスは、
 ・少数株主からの要請にもかかわらず、事業計画を提出しない
 ・株価算定評価書も提出しない
ため、上記の<1>・<2>の価値を検討することができない。
よって、裁判所の裁量により、評価額を決定せざるをえないとした。

(2) 同時期のTOB事例を参考に、期待にあたるプレミアムを20%とした

市場株価を下回るTOB価格でのTOBを除外すると、同時期のプレミアムは27.05%。

旧レックスのTOBでは、1か月平均+13.9%のプレミアムだったが、現レックスは、プレミアムの根拠を主張立証しなかった。
事業計画・株価算定評価書の提出もない。
よって、2において認定した客観的価値280,805円に20%を加算した336,966円を、上昇期待を付加した取得価格とするのが相当。

(3) TOB価格が合理的・正当であったとする推認はできない

旧レックスは、TOBに賛同するに先立ち、アビームM&Aコンサルティングに株価算定を依頼し、妥当性を検証した。
しかし、それについて、審理においても、要旨しか開示されていない。
少数株主には、株価算定評価書や事業計画によって、買付価格の合理性を検討する機会も与えられていない。
よって、多数の株主がTOBに応じたからTOB価格が合理的であったと推認することはできない。

仮に多数の株主がTOBに応じることをもって、TOB価格が合理的・正当と推認すれば、それは、反対株主にも同額での買付けに応じることを強制することになってしまう。
これは、買取制度の法の趣旨に反する。

また、本TOBでは、AP8以外にはデューディリジェンスの機会は与えられなかった。
他の者がTOBを行わなかったことをもって、TOB価格が合理的・正当と推認することはできない。

4 取得価格は1株につき336,966円とすべき。

以上が、東京高裁の決定であった。
結論は、東京地裁が現レックスの主張を認めたのに対し、東京高裁はより高い買取価格を示したことになる。

(3)現レックスの主張<< >>(5)現レックスの敗因


この記事は 2008 年 12 月 10 日 水曜日 8:19 PM に 企業 カテゴリーに公開されました。 この記事へのコメントは RSS 2.0 フィードで購読することができます。 現在コメント、トラックバックともに受け付けておりません。

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