【書評】経済の大転換と日本銀行

元日本銀行金融研究所所長、翁邦雄 京都大学教授による量的緩和論。

量的緩和の限界

第1章では、国際決済銀行(BIS)の「84th Annual Report, 2013/14」Chapter V内での議論が紹介されている。
BISは、金融緩和など政策手段が総動員されたように見える先進国において、金融政策の効果が限定的になっていると指摘する。
その理由は2つ:
 ・名目金利の下限がゼロ
 ・バランスシート不況の後遺症
Annual Reportは昨年2014年6月に出されている。
こうした見方が昨年前半に主流となっていたとすれば、FRBが今年の利上げにこだわるのも理解できる。

バーナンキのジョーク

翁教授はバーナンキFRB元議長が退任直前に飛ばした「バーナンキのジョーク」を紹介する。

量的緩和の問題点は、それが現実には効果を発揮したが、理論的には効果がないことだ

後追いの国には厳しい話ではないか。
リーマン危機後早期に量的緩和を繰り出し、ある程度の経済の立て直しを果たした米国。
FRBにとっては、とにかく効いたのだから結果オーライだろう。
しかし、日銀やECBはどうか。
まだまだ量的緩和を続けようとしている。
仮に日銀総裁が言うように、この政策が期待に働きかける政策ならどうなるのだろう。
「理論的には効果がない」と先駆者が言い切ったことで、「期待」は消滅してしまうだろう。

異次元緩和はただの偽薬ではない

翁教授は異次元緩和の効果を「偽薬効果」と語ることは危険だと言う。
偽薬効果(プラセボ効果)は薬効のない(たとえばブドウ糖や小麦粉の)錠剤でも思い込めば効果を発揮することがあるというもの。
異次元緩和を偽薬と表現するのは、リスクを過小評価するものだという。

投与された偽薬がブドウ糖錠のように「毒にも薬にもならない」ものではなく、国債大量購入という劇薬だ
・・・
この偽薬が劇薬であるゆえんは、覚醒剤や麻薬同様、投与をやめた途端に劇しい禁断症状をもたらし、患者に深刻なダメージを与えかねない

米国も逃げ切れないでいる

では、米国は逃げ切ったのか。
そうではない。
まだ難題の「出口」が残っている。
たった25ベーシスと言われる利上げさえできない。
たった25ベーシスが、利上げの前から世界の市場を引き締め、揺さぶった。
それが自国に跳ね返ってくるのが恐ろしくて、利上げができない。

翁教授は量的緩和を映画『新幹線大爆破』内の爆弾に似ていると指摘する。
時速80kmを切ると爆発する爆弾だ。
アクセル(マスター・コントローラー)を踏み続けているうちは大丈夫だが・・・、という話である。

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