【書評】日本経済入門

早稲田大学ファイナンス総合研究所の野口悠紀雄氏がデータを示しながら日本経済の現状を解説した本。
入門書というよりは、実質的に日本のタカ派エコノミストの主張を伝える内容となっている。

日本経済の様々な側面をデータをもとに解き明かしていく。
例えば第二章では、失われた10年以降の停滞がデフレのためとする考えを退け、産業構造にその原因を求めている。

「物価が下落することが問題だったのではなく、・・・日本の産業構造や経済体制が時代の新しい条件に適合しなかったことが、日本経済の不調の基本的な原因なのです。」

問題が構造的なものならば、その解決法は金融政策ではなく構造改革になる。
まさにタカ派と呼ばれる人たちが繰り返す主張が述べられている。
こうした野口氏の考えが、全編を通して述べられている。
特筆すべきは、データに忠実な野口氏の姿勢だろう。
数式や理論だけから説明される主張ではなく、現実のデータにあたるという姿勢が見て取れる。
データは捻じ曲げられない。

それを示すのが、トマ・ピケティの資本/所得比率に関する主張の検証だ。
ピケティは『21世紀の資本』の中でこう述べている。

「日本については、1960年以前の民間財産や国富の総額についての包括的な推計が存在しないが、手元の不完全なデータによると、日本の富がヨーロッパと同じ型の『U字曲線』を示すこと、そして資本/所得比率が1910-1930年に600-700パーセントと非常に高くなった後、1950年代、1960年代には200-300パーセントに低下したが、1990年代と2000年代に再び約600-700パーセントへ、めざましい回復をとげたことが明らかにわかる。」

野口氏は1990年代・2000年代に上昇したとされる資本/所得比率について、GDP統計・法人企業統計により検証し以下の結論を得ている。

「第1に、資本と所得の比率(ピケティのβ)が時系列的にどう変化しているかは、統計によって異なります。
ただし、ピケティの議論(貯蓄率が一定で成長率が低下するからβが上昇する)は、日本では成立しません。
なぜなら、貯蓄率が顕著に低下しているからです。
第2に、所得に占める資本所得の比率(ピケティのα)に上昇傾向は見られません。」

ピケティはαが上昇したために格差が拡大したと主張したが、野口氏は日本に関する限りそれがあてはまらないと示している。
日本で資本所得が増えないのは資本収益率が1970年代以降低下傾向にあるからだ。
野口氏は格差問題は重大な問題と認識している。
しかし、そのしくみは世間で考えられているものとは違うかもしれない。
それをデータによってあぶりだしている。

本書は今年3月、新書で出版されている。
バランスよく選ばれたテーマが簡潔にまとめられている。
日本のタカ派エコノミストの考え方を手早く知りたいならうってつけの本だ。