規律あるドイツ:低インフレは恣意的な金融緩和の理由にならない

ドイツという国は規律と統制の国だ。
こういう国が間違った方向に向かうと怖いのだが、正しい方向を指し示す場合も少々やっかいだ。

なにしろ正論だからやりにくい。
ドイツ連銀のバイトマン総裁が独紙ビルトに話したのをReutersが伝えている。

ユーロ圏は、戦後最も厳しい経済危機から緩やかにしか回復しておらず、物価リスクはほとんどない。
したがって、低金利は正当化できる

としながら、

低インフレ圧力は恣意的な金融緩和を行う理由にはならない。
インフレ圧力が高まった場合は、適切なタイミングで確実に利上げを実施することが必要だ

と釘を刺した。
 金融政策の目的は通貨の番人(インフレの抑制)であって
 インフレ誘導ではない
ということだろう。
伝統的な中央銀行の概念・手法に照らせば、確かに正論だ。
自由な思想で資産効果を主眼にした政策を駆使してきた日米にとっては耳の痛い話だろう。

バイトマン総裁の発言には苦渋のあとが見える。
もしもドイツ1国の話であったら、マルク安による輸出振興を狙ってリフレ政策もあったのかもしれない。
しかし、事はドイツ1国の話ではない。
好むと好まざるとにかかわらず、ドイツはユーロ圏の盟主なのだ。

ドイツがさらなる金融緩和を許容すれば、それを享受するのは資金調達が低利になるPIIGSなどユーロ圏周辺国だろう。
これらの国の公共部門は債務コストが軽減されることで緊縮財政へのモチベーションを失うかもしれない。
民間部門は低利借入の蜜に惹かれて再びレバレッジを拡大するかもしれない。
周辺国の財政・経済が再び不安定になれば、そのお鉢はドイツに回ってくる。
ドイツは強国だが、一方でナチスの記憶にあるように、規律・統制に対して強硬な国内世論も抱えている。
だから、容易には手綱を緩めたりしない。

ドイツの強硬さはドイツ自体にとってもつらいものだ。
ドイツはユーロ圏周辺国を骨抜きにしてしまったほどの輸出大国だ。
ドイツの輸出が欧州危機を生む大きな一つの要因であったと言ってもいい。
その輸出大国にとって、規律ある金融政策はつらい。
規律があるがゆえにユーロは対ドル・対円で極めて高位に置かれている。

ドイツは日本や米国、ドル・ペッグの通貨を使う国々との輸出競争において不利な状況にある。
これを脱するには、皮肉にも再度の欧州危機が必要なのかもしれない。
そうなれば、ユーロは急落し輸出産業は潤うだろう。
しかし、それを超える財政支出(他国の支援)を迫られるかもしれない。
何事もいいことずくめではないのだ。

ふと気になることがある。
リフレはいいことずくめなのか。
これまでの日本を見れば、多少の輸入インフレこそあれ、かなりいいことずくめのようにも思える。
どこに落とし穴があるのか。
それは、リフレの出口である。
リフレの出口で中央銀行ほかの国債保有者に発生するキャピタル・ロス貨幣発行益の巻き戻しだ。
仮にFRBが量的緩和縮小に成功するなら、世界はその落とし穴がどれほどのものか観察できるだろう。