内部留保課税は投資家にとって不利益か? – エージェンシー問題への一つの解として

毎日新聞が内部留保課税についての記事を掲載している。
法人税率の5%引き上げに付随した議論を紹介したものだ。

ダラダラとした法人税率の議論

民主党という党は、政治・経済に対する見識が乏しい。
人材がいない、意識の集約ができていないから、小沢氏ひとりに長々と時間を費やしてしまっている。
お世辞にも小沢グループに人材がいるとはいえない。
それでも小沢グループを簡単に切れない。
菅内閣・党執行部の人材の薄さがそうさせている。

法人税率の引き下げについても、さんざん時間を浪費した挙句、結局は引き下げとなった。
経済や雇用のことを考えれば当然の政策であろうし、長々と議論をしたところで、得るものは少ないテーマだ。
企業の優遇がけしからんというのが民主党のイデオロギーなら、それもそれとして、長々と議論をする必要はなかった。
引き下げ自体は正しい判断だと思う。
この上は、
繰越欠損金制度などで骨抜きとしないよう
・5%が単なるスタートであることを忘れないよう
願いたい。

内部留保を悪とする党税調の見識

毎日新聞の記事によれば、

税調メンバーらは減税分が「内部留保に回るだけ」と懸念して

いるという。
ものごとを確率分布で眺めることのできない狭量な委員たちなのか。
法人税率を下げれば、当期利益の一部である内部留保は増える。
しかし、その内部留保こそが、次の雇用・設備投資への糧となるものなのだ。
確かに、それでも雇用・投資を増やさない企業もあるだろう。
しかし、それは確率分布の問題。
マージナルには、雇用・投資にプラスとなる。

ものごとの本質は、日本の高い法人税率が、先行投資的な雇用や設備投資の妨げとなっている面があるということだ。
ここは法人税率を下げ、果敢にタックスパラドックスに挑むべきだろう。

さらに記事は、

政府税調メンバーの一人は
「法人税減税の結果、雇用に変化がなければ本当に(内部留保課税を)やる。
そうした姿勢を見せることが大事だ」と話す

と紹介している。
なんとも見識のない意見ではないか。
内部留保を増やさせ、そこから次の雇用・設備投資を生ませようというのに、わざわざ内部留保にペナルティを課そうとしている。
パラノイアのようにさえ見えてくる。

そもそも内部留保というのは企業の健全性を保つ上で大切な行いだ。
狭義の内部留保とは利益剰余金のことであり、
・利益準備金(法定準備金)
・任意準備金(任意積立金)
・繰越利益剰余金
のことを指す。
利益準備金が会社法で積み立てを義務づけらえていることを考えても、内部留保というものを過度にマイナスにとらえすぎない方がよい。

内部留保課税の性質

HSCIではすでに9月に、民主党政権の限界・分裂に言及していた。
おそらく、来年には、民主党の税調など意味をなさない存在になっているだろう。
しかし、ここでは、内部留保課税について、まじめに考えてみたい。

Wikipediaは、内部留保課税について、

内部留保は税を課した後の余剰金であるため、内部留保に対して課税すれば二重課税となる。
このため、特殊な例を除いて、内部留保に対する課税は認められない。

と切って捨てている。
なるほど、確かに二重課税だ。
税引前当期利益に法人税を課し、そこから内部留保した分について税を課す。
社外流出となる配当金にも課税がなされるから、なんとも不細工な二重課税のシステムが完成することになる。

二重課税は悪いのか。
悪い。
二重課税するなら、正々堂々、課税を法人税に一本化すべきだ。
それが簡単明瞭で公平な税制と言えるのではないか。
しかし、HSCIでは、内部留保課税に限って、二重課税も悪くないと考えている。
なぜか。

お金を貯めこむだけの無能な経営者へのペナルティ

法人税率の引き下げとセットであれば、内部留保課税も許容すべきではないか。
「内部留保悪人説」が言われる背景には、お金を貯めこむだけ貯め込んで、投資に回さない経営者への批判がある。
経営者たちは、
 現在の景気動向、将来の潜在成長率を考えて
との言い訳をするだろうが、そもそも企業家たるもの、マクロ経済を理由にベンチャーを回避するのでは資格がないといわざるをえない。
株式会社という法人格を隠れ蓑にした保身ととられても当然だ。

内部留保課税は、確かに内部留保を阻害する要因となろう。
内部留保が増えなければ、次の投資も行われない。
結果、起こることは配当の増加だろう。
実際、現在の税制でも「特定同族会社」の内部留保には10-20%の課税がなされる。
この課税の結果、経営者は配当を増やすよう促される。

資本市場・投資家にとっての影響

配当が増えることは、概して資本市場・投資家にとっては歓迎すべきことだろう。
そもそも、日本には信頼のおける経営者が多いとは言えない。
密室で任命され、能力のほども分からない経営者にお金を預けておくより、源泉税を取られても配当として分配された方がよい。
もちろん、いつまでも安心してお金を託したいという経営者・会社があるなら、内部留保に課税されることは大きなマイナスなのだが、日本には幸か不幸かバフェット氏のような経営者は極めて少ない。

配当が支払われるということは、資本の再配分が行われるということだ。
特に、成長余力のない企業から多くの配当が出てくるだろうから、配当の増加は、資本市場における資本の最適化にプラスとなる可能性が高い。
言い換えれば、
 使い道の分からない経営者からお金を回収して
 投資家自身が有望な事業にそのお金を回す
ということだ。
投資家個人の利益にもなり、社会全体の効率化にも寄与する。

民主党の見識のなさ

内部留保課税を唱える民主党税調メンバーはそれを理解しているのだろうか。
さらに、内部留保課税の本質を理解しているのだろうか。

税引前当期利益から、法人税が引かれ、そこから
・内部留保課税がなされれば、内部留保に課税され
・配当金にも課税される。
そこで、法人税率を下げ、内部留保課税を行うことの本質とは、
・実質的な配当金への課税(法人税+配当への課税)を下げ
・企業の実質的な法人税負担(法人税+内部留保)を維持し、雇用・経済を停滞させる
ということなのだ。

良く言えば、
・資本の最適配分
・年金基金などへのプラス要因
悪く言えば、
・金持ち優遇

民主党のイデオロギーにてらして、それをきちんと理解した上で検討をすべきことだろう。
ただし、再度言っておくが、幸いなことに来年の今頃には民主党税調は単独では意味をなさない組織となっているだろう。
次の政権の税調のレベルに期待したい。