佐々木融氏:インフレ率の上昇だけならこんなに迷惑なことはない

JP Morganの佐々木氏がReutersに海外投資家に広がる「アベノミクス疲れ」とのコラムを寄せている。
佐々木氏の意見は、足元のバランス感覚を確認する上でたいへん役に立つ。

日銀金融政策決定会合での「貸出増加を支援するための資金供給」と「成長基盤強化を支援するための資金供給」の強化に一応の評価をしながら

2012年12月に白川方明前総裁の下で詳細を決定した「貸出増加を支援するための資金供給」は、当初日銀は実施期間終了の今年3月までに15兆円程度の需要があると試算していたが、現在の残高は5兆円程度にとどまっている。

と冷徹な現実を示す。
銀行からすれば、貸せる相手があれば貸しているということだろう。
「成長基盤強化を支援するための資金供給」についても、趣旨は理解できるものの、課題も大きい。
こういうインセンティブを金融機関に与えると、とかく実質的な「旧債振替」が多く混じりこむものだ。
つまり、成長分野への融資の約定弁済が進むにつれ、インセンティブの載った形で貸しなおすという行動だ。
旧債振替が悪いとは言わないが、政策決定者の意図する効果を著しく減殺するのは間違いない。
結果、このような制度は、結局のところ金融機関への見えない補助金になってしまう。

佐々木氏は日銀の資金供給強化について

これが昨年のような急激な円安・株高につながることはないだろう。
今の日本経済が必要としているのは低利で調達できる資金ではなく、民間が手元にある資金でリスクを取って投資をしたいと考えるような経済構造の見通しである。

と本質を突く。
そう、こういうインセンティブは、企業の資金需要が強い場合に最もよく機能するのだ。
インセンティブがあるから資金需要が高まると言うのには限度がある。
佐々木氏は、

 政府がリスクテイクを求めるべき相手は年金基金というより企業

と皮肉る。

気になるのは為替の行方。
佐々木氏は、

 追加緩和は織り込み済みでさらなる「円安・株高の動きは限定的」
 とは言え、急激な円高にもならない
 世界のリスクテイクが強まれば、円が調達通貨として売られるから

である。

最後に、元日銀マンらしい注文をつける:

政府も日銀も「インフレ率は予想通り上昇してきた」としているが、まさかインフレ率を上昇させることが最終目的だと思っていることはないだろうか。
以前から本連載や著書などを通じて指摘してきたことだが、インフレ率が上昇するだけなら、国民にとってこれほど迷惑なことはない。

金融政策の目標は何であるべきかを考えさせられる直言だ。
「大蔵省」的に言えば、世の中の会計帳簿の左右が合えばそれでいいのだろう。
そこには、時価の考えは希薄だ。
どんなにインフレが進んでも、会計帳簿の左右は合いうる。
しかし、左右があったからといって、社会福祉が向上するとは限らない。

量的緩和は少なくとも出口において大きな社会的コストをもたらす。
さらに、そのプロセスにおいて社会の格差を拡大させる。
それに見合うリターンをもたらすことが政府・日銀の責務である。