静かなMicrosoft Security Essentialsのバージョンアップは何を示唆するのか

2010年7月にベータ版が公開されていたマイクロソフトのウイルス/スパイウェア対策ソフトMicrosoft Security Essentials(MSE) 2.0の正式版が、12月16日に公開された。
無償のウィルス対策ソフトのバージョンアップだが、とても静かな扱われ方だ。

ソフトの特徴は
 ・個人・小規模オフィス向けの無償ソフト
 ・Windows Updateでマルウェア定義ファイルを更新
 ・マイクロソフトのオンラインコミュニティMicrosoft SpyNetでマルウェア情報を共有
といったところだろう。
V. 2.0へのバージョンアップでの主な変更点は
 ・新しいマルウェア対策エンジンを搭載、検出が向上・高速化
 ・Internet Explorerでのブラウスについての保護(Windows Vistaまたは7)
 ・Windows Firewallとの連携(たいした話ではない)
などだ。

早速、個人のPCにインストールしてみたが、リソースの消費が少ないようで、常駐させてもあまり負担にならないようだ。
市販のウィルス対策ソフトと併用しているが、これまでのところ支障はない。
無償で提供されているものなので、併用に障害がない限り、インストールすることに害はないのではないか。

インストールをしたところ、既にインストールされていた無償のスパイウェア対策ツールWindows DefenderがOFFになった。
MSEの機能によってDefenderが不要になったということだろう。

思い出せば、マイクロソフトがセキュリティソフトに参入したのは2003年のGeCadとPelican Software、2004年のGiant Software買収からだ。
それから7年、マイクロソフトはこの分野をどう見ているのか。

コンピューター・ギークの間では、ウィルス/スパイウェア対策はOSの責任範囲だと考える風潮が強い。
確かに、Windows OSでこれほどまでにマルウェアが多いのは、OSが普及した弊害ばかりではなく、OSの脆弱性も大きな要因だろう。
Windowsは有償のOSであり、その観点からもOSベンダーの責任は大きい。
それに応えるための無償のMSEであるとすれば、それは一面、理にかなった話である。
特に、世界で有償ソフトの普及が進んでいない地域では、MSEが「マルウェアの蔓延するPCやネット」を目覚しく改善するかもしれない。
世界がネットワークでつながっていることを考えれば、これは喜ぶべきことだ。
しかし、問題はそう単純ではない。

マイクロソフトはさまざまな分野で独禁法関連の訴訟を抱えてきた。
ウィルス/スパイウェア対策ソフトの分野でも同様のことは起こりうる。
V. 1.0がリリースされた時は、現に
 市販のウィルス対策ソフトを置き換えるという位置づけではない
ということが強調されていた。
これは、この分野でマイクロソフトが係争を抱えたくないという気持ちの表れだろう。
実際、同社はこれまでブラウザ、メーラー、検索エンジンなどの分野で同様の係争に苦しんできた。
今回のバージョンアップが静かに行われたのも、その文脈であろう。

そもそも、MSEは有償のセキュリティソフトウェアWindows Live OneCareを置き換えるものとして導入された。
OneCareは2007-2009年に販売されたが、当初の性能が芳しくなかった、並行して販売されたWindows Vistaが思うほど成功しなかったこともあり、ほとんど普及しなかった。
結果、MSEという無償ソフトによって置き換えられることとなった。

MSEが限定した機能しか持っていないのは、このような経緯がある。
リソースを浪費しない、ユーザーインターフェイスが単純などの利点はあるものの、MSEだけでウィルス/スパイウェア対策が万全とは言えないことには注意したい。
それは、マイクロソフトの力量というより、係争を避けるための方針といった方がいいことは先述のとおりだ。

では、あの獰猛なマイクロソフトは、これからどうするつもりなのだろう。
 ・Essentialsの名前のとおり、OSの補完であるとして、現状を甘受し続けるのか
 ・再び個人向けでも有償化を目指すのか
 ・何か意図があって、無償のまま機能を完備し、ライバルを駆逐するのか
短期的なユーザーの利益を考えれば、無償のまま機能を完備してもらえればありがたい。
しかし、長期的に公正な競争関係を害するなら、手放しでは喜べない。
獰猛なマイクロソフトの動向を、期待しつつ、恐れつつ見守るしかないようだ。