高頻度取引と犯罪の狭間

エリック・ホルダー米司法長官は、高頻度取引(HFT)がインサイダー取引に該当しないか捜査すると表明した。
HFTは不公平を超えて、犯罪行為ではないかと疑われている。

HFTについてWSJがまとまったレポートを載せている。
先日も紹介したマイケル・ルイス氏の新著「フラッシュ・ボーイズ」についての記事だ。
その書き出しには、HFTの不公平さが端的に表れている:

2007年春、ロイヤル・バンク・オブ・カナダのニューヨーク支店で株式トレーディング部門を率いていたブラッド・カツヤマ氏はマーケットの動きがおかしい、と感じた。
インテルの株式1万株を1株22ドルで買おうと「買い」ボタンを押したとたん、売り注文が消えてしまったのだ。
まるでマーケットが彼の心を読んで彼が買う前に売り注文を変えてしまったかのようだった。

サブ・ミリ秒の間に、HFTが板を書き換えてしまったのだ。
「最良執行方針」の技術的な穴をすり抜けた営みである。
HFTは何をやったのか:

あなたの注文が最初の取引所に着くと、すぐに高頻度取引業者がそれを知り、あなたに先駆けて他の取引所でマイクロソフト株を買い、若干利ざやを上乗せした価格であなたに買わせるのだ。
このすべては1000分の1秒の間の出来事だ。

合法的なトレードではあるが、HFTとそれ以外の投資家との間の不公平は大きい。
HSCIでは以前、日本取引所の呼び値の細分化にからめてHFTを取り上げた。
WSJはルイス氏の

高頻度取引業者は、取引所に株価を従来よりも小刻みにすることを要求した。
1セントの1000分の1の値動きによって細かく利益を得られるようにするためだ。
取引所はその要求を受け入れた。
ルイス氏は「2013年の夏までに、世界の金融市場は高頻度取引業者と一般の投資家の衝突が最高潮に達した。
そのつけは一般投資家に回された」と語っている。

との言い分を「一方的」としながら紹介している。
呼び値の細分化もHFTも市場の流動性を増すという明るい側面もある。
何事もバランスが必要だ。

さて、米司法長官が言及した「インサイダー取引」とはどういう話か。
HFTとインサイダーとは少々異なる対象の話のように思える。
それには、まず「フロントラン」という犯罪行為を説明する必要がある。
フロントランとは、ブローカーが顧客から注文を受けた際、顧客の注文の前に自分の注文を先に出すことを言う。
たとえば、顧客が買い注文を証券会社に出した時、証券会社が先に買ってしまい、それに少し乗せて顧客に買わせるわけだ。
では、HFTがサブ・ミリ秒で他者の注文状況を見た上で発注・変更・取り消しをすることがインサイダー取引なのかどうか。

ルイス氏はHFTがフロントランと同じことをしているという。
Bloombergはルイス氏とGreenlight CapitalのDavid Einhorn氏との会話を紹介している:

ルイス氏によれば、ヘッジファンド、グリーンライト・キャピタルで数十億ドルを運用するアインホーン氏は最初、何が行われているのか理解していなかった。
知った時のアインホーン氏の反応は「なんということだ。知らなかった」というものだったという。

ルイス氏は、アインホーン氏のような投資家を「八百長カジノの間抜けな観光客」と例えている。
同氏がブローカーによるフロントランとHFTを同一視する根拠は何か。
新著では「業界のインサイダーが高性能コンピューターを駆使して市場を操作している」と描いている。
つまり、ルイス氏は、業界を利害が一致したひとくくりの存在としているのだ。
確かに、取引所もブローカーも、HFTが盛んになれば手数料収入が増えるという点で同じ方向のモチベーションが効いている。

HFTはまた、「インサイダー取引?」の脇役としての役割も担っている。
これは、公表情報の先取りと高速発注である。

2013年9月には、ワシントンでのFOMCの発表後7ミリ秒未満にシカゴで先物注文がなされたことが問題視された。
7ミリ秒とは、ワシントンからシカゴまで光がかかる時間、つまり、情報伝達の理論的な最高速度である。
事前に情報が漏れたためだが、7ミリ秒未満に注文を出すには、HFTのような高速取引システムが必要だろう。

今年2月にはバフェット氏傘下のBusiness Wireが、HFTへの情報の直接アクセス販売を停止した。
Business Wireはメディア、金融機関などとともにHFTにも情報を有料で直接アクセスさせていた。
もちろん、情報の中身を読み込む時間が必要ではあるが、いずれにせよHFTが発注だけでなく、情報収集でも有利な立場におかれていたのは間違いない。

犯罪なのか否かは法律上の問題だ。
規則違反か否かは取引所や証券会社の決める問題だ。
しかし、あまりにも不公平が大きくなってしまうと、市場は不毛の地となってしまうだろう。