インフレ目標は達成せず、追加緩和は実施され、出口は見通せない

中央銀行の次の一手を占うのが、日米ともに市場関係者の主たる仕事になって久しい。
Bloombergが日銀追加緩和の時期についてエコノミスト対象の調査を行っている。

36人中32人が追加緩和ありと回答している。
結果の表が4日に、記事が本日掲載された。
市場は4日も今日も下げたから、追加緩和はすっかり織り込まれているのだろう。

この調査を論じるより、記事中の翁邦雄京都大学教授のコメントを紹介したい。
翁教授はBloombergに、異次元緩和には「政策に長期的な整合性と透明性がない」と指摘し、「目標到達後に矛盾が表面化するリスクが高い」とコメントしている。
後段は、異次元緩和のリスクが出口にあると言っているのだろう。
では、前段はどういう意味だろうか。

インフレ率が明らかに2%を超えて加速していく場合、国債保有額を減らし、金利を上昇させ、インフレ率安定化に動けるのかが問題になる。
金利上昇は財政状況を不安定化させるが、ぜい弱な財政基盤を抱える政府は低金利長期化を既に経済・財政展望に織り込んでいる。
整合的でない枠組みのもと、『2%のインフレ目標』だけが独り歩きしている現状には、大きなリスクがある。

整合性がないとは、

 政府は巨額債務を維持するため長期の低金利を見込んでいる
 日銀はインフレが高進した場合、金利上昇の容認または利上げせざるを得ない

という同床異夢のことなのだ。

以前、翁教授の著書「日本銀行」を紹介したことがある。
そこでも翁教授は量的緩和の出口でのリスクを指摘していた。
この本の優れた点の一つは、出口における4つの選択肢を列挙したことだ:

  • インフレとともに起こる金利上昇を甘受する: ありそうにないとする。
    これを選べば、巨額の金利を金融機関に支払い続けることになり、政府は厳しい批判にさらされる。
  • 日銀の財政悪化を政府が保証する: 黒田総裁が否定している。
  • Financial Repression: 預金準備率を大幅に引き上げて日銀当座預金の金利をゼロにして、実質的な課税を行う。
  • クルーグマンの提言「無責任な中銀になれ」を実行: インフレを制御できなくなる可能性が高い。

これだけ読むと、Financial Repressionしかないように思える。
しかし、2番目の選択肢もありうるものと筆者は考える。
もちろん、日銀のB/Sが傷むなどという話を日銀ができるはずがない。
しかし、仮にそうなれば、国が増資をお膳立てするのが自然な流れだ。
ところが、日銀のB/Sが傷んだ分、国が増資を引き受けるとは、金利上昇のデメリットを日銀から国へ移転する話でしかない。
広義の政府として、金利上昇による財政悪化を被るという話であり、1番目の選択肢と似たような話になる。

やはり、隠れた課税Finanacial Repressionということか。
皮肉にも、私たちは当分出口の心配は要らないようだ。
Bloomberg調査では36人中

 日銀の2%のインフレ目標が実現すると答えたのは32人
 異次元緩和縮小時期で一番多かったのは「見通せず」の15人

異次元緩和に出口は見えないようだ。

いや、それはおかしい。
異次元緩和に出口がないなら、日銀は思い出したように追加緩和を行うことになってしまう。
そんなことが維持可能であるはずがない。
調査ではとらえきれないシナリオがエコノミストたちの脳裏にあるのではないか。

ちなみに、日本はプラス成長でありながら、実質金利はマイナス圏にある。
だいぶ前から日銀当座預金以外のところでFinancial Repressionは始まっている。
追加緩和実施のタイミングでは、一時的に金利はさらに下がるかもしれない。
しかし、それは一時。
マイナスの実質金利が続く限り、現預金や債券を持つことは不合理であり続ける。