市場が動揺 – 債券王ビル・グロス氏の電撃移籍

債券王ビル・グロス氏がPIMCOを退社し、ライバルのJanus Capitalに移籍することがわかった。
一部市場関係者からは、PIMCOの経営や債券市場全体への影響が心配されている。

26日退社、29日着任

まず、事実関係から確認しておこう。
26日付のPIMCOリリース

最高投資責任者(CIO)のウィリアム・H・グロースは辞任し、本日付で退社します。
PIMCOの経営委員会(Management Board)は、次期CIOの選任を近く発表します。
・・・
この1年を通じて、会社の経営陣とグロース氏との間にPIMCOの今後の方向性に関して根本的な見解の相違があることが次第に明らかになってまいりました。

事業運営の方向性の違いを理由とした別れであったようだ。
PIMCOを創業し世界最大の債券ファンドに育て上げたグロス氏は、自ら身を引くこととなった。

移籍先のJanus Capitalのリリースにはこうある:

世界的に高名な債券投資家ビル・H・グロスが9月29日付でJanus Capital Groupに参加することを本日発表する。
カリフォルニア州ニューポート・ビーチに新設するJanusオフィスにて、ビルは新たなグローバル・マクロ債券ビジネスを立ち上げるとともに、10月6日付にて最近ローンチしたJanus Global Unconstrained Bond Fundのポートフォリオ・マネージャーに就任する。
(浜町SCI訳)

Janus Capitalのスクリーン・ショット迎えるJanusはたいへんな鼻息だ。
同社トップ・ページは右のような写真を載せグロス氏の着任を強調した。

何しろ「王」と呼ばれてきた人。
その手腕にかけてPIMCOに投資した顧客は多い。
Forbesは発表時点だけでJanusに6.62億ドルの経済効果があったと指摘した。

ビル・グロス氏移籍の背景

創業者であるグロス氏がPIMCOを退社する背景には何があったのか。
単なる方向性の違いだけなのだろうか。
Reutersによれば

グロス氏はこれまでもピムコの幹部らと衝突を繰り返す度に辞任をちらつかせていた。
翌27日にはピムコと親会社の独アリアンツがグロス氏の解雇に踏み切るとの憶測すら流れていた。

とあるから、決して穏やかな別れではなかったようだ。
Bloomberg

パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の執行委員会は過去1週間、同創業者で最高投資責任者(CIO) のビル・グロース氏の解雇について話し合っていたことが、事情に詳しい関係者の話で明らかになった。

と内幕を披露している。

揺れるPIMCO

最近のPIMCOは過去の輝きを失ったかのようだった。
債券市場が強気相場を終えたことに加え、PIMCOの運用成績が振るわない時期があった。
結果、グロス氏が運用していた旗艦ファンドThe Total Return Fundからの資金流出に見舞われるなど、厳しい状況が続いている。
上記Reuters記事ではS&P Capital IQの

ピムコとグロス氏は同意語であって、両者を切り離して考えることなど到底できない

とのコメントを紹介している。
PIMCOからの資金流出は今後加速する懸念もある。
別のReuters記事ではモーニングスターの話として

投資家はPIMCOから数千億ドルもの資金を引き揚げ、グロス氏の移籍先であるジャナス・キャピタル・グループに投じる可能性がある

との見方を紹介した。

PIMCOと言えば今年1月、グロス氏と共に共同CEOを務めていたモハメド・エルエリアン氏が退任し、経営体制の刷新が行われた。
その後、エルエリアン氏とグロス氏が唱えたNew Normalという見方を取りやめている。
かわりにPIMCOはNew Neutralという大局観を提唱した。
しかし、グロス氏がNew Neutralを語る語り口はそれほど歯切れのよいものではなかった。
グロス氏の月例書簡も以後、面白みを失っていったように感じられた。
新体制とグロス氏の間には、経済見通しについても埋められない差があったのかもしれない。

なお、PIMCOの親会社独アリアンツは今回の退任について、最近のSECによるPIMCOへの捜査との関係を否定している。

グロス氏退任が及ぼす市場の動揺

この変化が市場に何を及ぼしうるのか。
それは、

 グロス氏が世界最大の債券ファンドを運用していたこと
 必然的に世界最大の債券ファンドの運用者が変更となること
 PIMCOとグロス氏の間に大局観の差があったように見られること

を思い起こせば理解できる。
Bloombergは幅広い資産クラスで早くも動揺が走っていると伝えた。

米国債は下落。
グロース氏の退社でPIMCOが方針を転換し、米国債投資をやめるとの観測が広がった。
・・・
「大規模な解約や強制的な清算に見舞われるとの懸念がある」
「存在が大きいと市場に入るのも、市場から出るのもたやすくはない」

巨大なクジラがプールから上がれば、プールの水位は大きく下がり、高い波が立つということだろう。