国債市場で起きていること

先週、日本の長期国債利回りは一時、史上最低となる0.300%をつけた。
10年という長い期間の対価がわずか年0.3%とは、いったい何が起きているのか。

長期金利がどんどん下がるわけ

もちろんこの低金利の原因は日銀が国債を買い上げているからだ。
しかし、ここで議論しているのは長期国債。
市場が決めると言われてきた長期金利がここまで下がるものだろうか。
この疑問への答は目下2つあるだろう。

1つ目は国債の需給がひっ迫していること。
ここで言う国債とは投資先としての国債ではない。
担保などに利用される、価値の化体としての国債である。
国債を保有する目的は何も利殖のためだけではない。
仮に利息が付かない場合でも、国債には利用価値がある。
市場取引の担保などに使う場合だ。
日銀が国債を買い上げた結果、このような用途のための供給がひっ迫しているのだ。

2つ目に挙げられるのは、通貨スワップとともに投資が行われる場合だ。
これについて正しく理解しておきたい。
それには今月初のBloomberg記事が役に立つ。

ブルームバーグのデータによると、ドル・円ベーシススワップの2年物などで運用金利をドル建てに交換する投資家は2桁台のベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の上乗せ金利を受け取ることができる見込みだ。
購入した日本国債2年物からの受け取り金利はベーシススワップでドル建てに交換すると、米国債より58bp前後高くなる計算だ。

Bloombergが2年ものを例に挙げたのは、2年もの日米実質金利差が最もドル円レートに影響を及ぼしていると言われるからだろう。
その2年もののベーシススワップを用いると、金利をドル建てに交換できる。
出来上がりの利回りは米国債への投資より58bpほど高くなるのだ。
そのような関係が成り立つ場合、投資家は米国債ではなく、日本国債+通貨スワップに投資しようとするわけだ。

今、これと同じ構図が長期国債でも成立している。
これが、超低水準の長期金利を生み出しているのである。

国債利回りは急騰するか

長期金利の低下が注目を集めているのは、日本国債がバブル状態にあるのではとの危機感にある。
今日のBloomberg記事では

みずほ証券の早乙女輝美シニア債券ストラテジストは、日本銀行による巨額の国債買い入れに加え、昨年の売り越しから買い越しに転じた「海外勢の存在感と影響は大きい」と指摘。
その分、この「2つの需給要因がいつ剥落するかが来年の注意点になる」と述べた。

と紹介している。
この指摘は正しい。
ただし、この指摘は注意深く読まないといけない。

日本国債の暴落懸念が言われて久しい。
しかし、この1年半を見る限り、国債は暴落しないのだろうと思う。
国債が急落しようものなら、日銀は最後の1円まで国債を高く買い上げるだろうからだ。

もはや日本の国債市場は自由市場ではない。
国債利回りはもはや市場金利ではない。
一種の公定歩合であり、とうの昔に指標性を失っている。
この金利が重要となるのは、国債とそれに極めて近い関係にある証券だけだ。
日本の長期金利と実体経済の間の関連性はもはやほとんど失われたと考えるべきだ。

かつて日本は大きな痛みをともなう金融自由化を成し遂げた。
異次元緩和は、この金融自由化を逆戻りさせ、金融市場を統制市場に戻したという側面を持つ。
日本の金融市場は統制市場なのだから、長期金利が上昇するのではとドキドキする必要はない。
もっと他のことにドキドキすべきなのだ。

地雷は他のところに埋まっている

本当に心配すべきは長期金利(10年もの国債金利)ではない。
国債など、日銀が巨額を買い上げている証券に内在する金利ではない。
日銀といううわばみにむさぼられていない、市場性のある証券に内在する金利だ。
だから、日本経済を心配するなら、端緒となる現象は2種類考えられる。

  • 国債も、その他の証券も暴落せず、その代わりに円が下落する。
    資産価格が円貨で下落しないため、その代理として円が下落するシナリオだ。
    この場合、資産価格は外貨換算では下がっていることになる。
    国が借金を踏み倒す手口だ。
    これは、政府・日銀から見れば、成功シナリオと言えよう。
  • 国債など日銀が買い上げている資産とその他の資産クラスの間で、バリュエーションの断裂が起こる。
    このシナリオはなかなか予想しにくい。
    すでに日本株も不動産も日銀の手垢にまみれた市場となっている。
    米国が金融政策の正常化を進め、日本が消費増税を先延ばしにしたことで、日銀はさらに複数回追加緩和を行う必要に迫られるのではないか。
    そこでは、新たな買物の対象を探さねばならず、官製化の波は幅広い資産クラスに及ぶ。
    もしかしたら、かつての共産主義国家のようになって、闇市場でもできるのかもしれない。

成長戦略として規制緩和やTPPを挙げる国家の金融市場がどんどん国家管理されていく。
なんとも皮肉な世の中ではないか。