スティーブン・ローチ:中央銀行は市場の手先になりさがった

元モルガン・スタンレー・アジア会長Stephen Roach氏がProject SyndicateでFRB金融政策の危うさを警告している。
目先の市場や景気を優先する風潮にくぎを刺す厳しい論調だ。

ローチ氏はグリーンスパン・プットで象徴される中央銀行の変質を指摘する。

問題の根源は、FRBが他の中央銀行と同じく、実体経済のしもべではなく金融市場の手先になり下がったことにある。
この変質は、金融政策がインフレの腰を折り、FRBが新たな課題に直面した1980年代終わりから始まった。

FRBの変質を決定的にしたのが2000年のITバブルの崩壊だ。
ローチ氏は「その時、サイは投げられた」と書いている。
FRBは資産バブルの予防・後始末を行うだけでなく、「資産市場に経済成長の重要な源泉としての役割を与えた」という。
ローチ氏は、資産市場をFRBが生み出した化け物と表現している。
そして、ついに氏の批判の本質を示す先例が語られる。

FF金利は2004年6月まで46年来の低金利である1%に留め置かれた。
その後、2004年半ばから2006年半ばまでの2年間、25ベーシスずつ17回にわたって利上げが行われた。
この段階的な正常化と長い金融緩和の期間こそ、迫りくるリーマン危機の原因となったリスク・テイクの放置を生んだ。

ローチ氏は、FRBが利上げペースを速めるべきという。
それこそがシステミック・リスク上昇を回避する道だと言う。

FRBが早く市場に取り組むほど、市場が経済に及ぼす影響も少なくなる。
もちろん、急速な正常化は不幸を生む。
しかし、世界は破滅的な危機の到来の方を望んでいるようなのだ。

日本ではすっかり量的緩和政策への批判が聞かれなくなった。
効果が薄れてきたとの認識は共有されつつあるが、それでも批判には結びつかない。
すでに「サイは投げられた」からだ。
もはや《毒を食らわば皿まで》なのだ。

米国はついに小幅ながらも利上げに踏み切った。
大統領を擁する民主党でも、エコノミストの多くが利上げに反対したのにである。
それほど副作用への危機感も大きいということだろう。
資産効果を経済政策に利用することの是非が問われている。

クリントン政権で財務長官を務めたローレンス・サマーズ氏もまた利上げに反対してきた一人。
サマーズ氏はバブルでなく不況の到来を予想し、政策金利に下げ余地がないことを警告している。
見通しこそ逆だが、結論は同じ。
《政策金利が低すぎる》なのだ。

日本では資産価格にバブルの気配は見えない。
債券や不動産などで割高感が無視できない一方、株式ではまだ上値を追う余地があるように見える。
国内・海外の経済が下向けば割高感が増すとは言え、債券を除けばバブルの領域はまだ遠い。
だから低金利はまだ続く。
しかし、その間、中央銀行のバランスシートが拡大を続けるとなれば、話は深刻なままだ。
米国が議論しているのは、バランスシートの拡大を停止した後の金利水準。
日本の場合は、バランスシートの拡大が継続している。
そして、その拡大が低金利を支える一因となっている。
マグマはまだどんどん蓄積され、それが終わると反動で金利上昇が起こり、大きな反動を招きかねない構図なのだ。