スティグリッツ:量的緩和が失敗した原因

ノーベル経済学賞学者ジョゼフ・スティグリッツ教授が量的緩和政策の失敗を分析した。1)
貸出・投資を喚起できなかったと指摘し、格差や経済減速をもたらす独占を排除すべきと説く。

リーマン危機後いち早く米国は量的緩和に踏み切った。
マネタリー・ベースの拡大を図り、市中銀行がFRBに保有する超過準備への付利を維持した。
スティグリッツ教授は市中銀行へのこの利払いを「寛大でほとんど知られていない補助金」と批判している。
皮肉にもこの補助金の率(付利の利率)は、12月の利上げとともに引き上げられた。

この付利はFRBが政策目標を達成するためのインセンティブだった。
結果、マネタリー・ベースは積み上がった。
しかし、それが貸出や事業投資に向かうことはなかった。
市中銀行はリスクのある貸出より確実に稼げる超過準備を好んだ。
企業はリスクのある事業投資より自社株買いを好んだ。
結果はどうだったか。

金融政策も金融セクターも期待された結果を上げなかった。
洪水のような流動性がいびつな形で金融財産を作り、資産バブルを生んだ。
実体経済を強化することにはならなかった。

もっとも、このことは量的緩和を始めたベン・バーナンキFRB議長(当時)自身が覚悟していた。
バーナンキのジョークとして知られる発言がそれを示している。
ただし、本人は効果があったと今も信じているのだろう。

量的緩和は実体経済と金融経済のダイバージェンスを生んだ。
実体経済も改善したが、金融経済ほどの拡大はなかった。
実体経済をともなわない金融経済の拡大は、かえって実体経済の脆弱性を拡大することとなった。
どこでボタンを掛け違ったのか。

期待された効果を発揮するためには、不全をきたした貸出経路(特に中小企業向け)を回復させるだけでなく、個々の銀行に貸出ノルマを課すべきだったのだ。
銀行に貸さないよう促すのではなく、超過準備にペナルティを課すべきだったのだ。

なんと示唆に富む指摘だろう。
筆者はこれを読んで2つの事例を思い出した。
1つ目は2010年の日銀による「成長基盤強化を支援するための資金供給」だ。
まさに、貸出経路を確保し、ノルマではないがスイートナーをつけようという施策だった。
白川総裁(当時)が悩みぬいて打ち出した施策であり、質という面で画期的なものだった。
ただし、日本はこれをもってしても流動性の罠から抜け出せていない。

もう1つは日欧が取り組むマイナス金利であり、超過準備に対するペナルティである。
これも、少なくともユーロ圏を見る限りはかばかしくない。
量的緩和よりは気が利いているような気がするが、効果を判断するのはまだまだ先になろう。

スティグリッツは進むべき道を示す。
・インフラ投資
・教育
・技術
・環境税
・格差/経済減速を生む独占の排除
理想は高く、道は長い。

(出典)
1) ジョセフ・スティグリッツ他, Project Sysndicate(2016),「What’s Holding Back the World Economy?」, https://www.project-syndicate.org/commentary/whats-holding-back-the-global-economy-by-joseph-e–stiglitz-and-hamid-rashid-2016-02 (参照2016/2/10)