【輪郭】マイナス金利の限界がユーロ紙幣を抹殺?

ECBが500ユーロ紙幣(約63,000円相当)について廃止を含めて検討している。
マネー・ロンダリングや不正売買などの犯罪を防ぐためとされているが、それが第一の理由だろうか。

500ユーロ紙幣の廃止論議

確かに63,000円は日々の買い物に使う金額ではない。
現金取引が安心という話ならわからなくもないが、やや大きすぎる印象はある。
一方、比較的に高額紙幣の利用に慣れているドイツ人は、500ユーロ紙幣の廃止に後ろ向きという話もある。

こうした金額が不正に使われるというのは事実なのだろう。
だた、500ユーロ紙幣を廃止しても200ユーロ紙幣がある。
そんなに犯罪防止になるのだろうか。

ユーロ圏でのタンス預金需要

時節柄、どうしてもタンス預金の需要と重ね合わせてしまう。
ユーロ圏で目下一番人気の金融商品はタンス預金だ。
これには2つの理由がある:

  • 金融機関の不安: 大手金融機関でも株価が大幅に下落するなど、金融危機再来の懸念が高まっている。
  • マイナス金利: 預金金利が低く、預金がかえってマイナス金利・口座維持手数料で損失を生む可能性がある。

2014年6月にECBがマイナス金利を導入して以来、ユーロ圏の銀行は余分な預金を預かりたくない状態に置かれている。
リスク・リターンに見合う投融資分は預金を預かれるものの、多く預金を受け入れすぎれば逆にマイナス金利の憂き目にある。
運用難が悪化すれば、預金を顧客に返す選択肢も考えないといけない。
そうした時、顧客の側からすれば、タンス預金は一つの選択肢だ。

マイナス金利政策の不全

そもそもマイナス金利政策は銀行に投融資を促し、経済を刺激しようという手法であった。
ところが、タンス預金はこのマイナス金利を無力化する。
投融資にも消費にも向かわないから、景気を改善する効果はない。
市中銀行が中央銀行に置いていた超過準備が、紙幣の形でタンスの中に移されるだけなのだ。

市中銀行も現金の持ち主も、投融資・消費するより現金を持っておきたいからそうするのだ。
決して、投融資や消費をしたくないわけではない。
もうかる投融資案件がないから投融資が起こらない。
実のある消費にも限度があり、将来に不安があるから、消費が起こらない。
マイナス金利は背中を押そうとするが、手を前に引っ張ろうとはしない。

500ユーロ紙幣廃止の本当の目的

500ユーロ紙幣はこうしたタンス預金対策なのではないか。
庶民のタンス預金はともかく、巨額の資金を保有する企業・個人が現金を倉庫に保管することへの牽制なのではないか。

元日銀副総裁で日本経済研究センター理事長の岩田一政氏は最近、円紙幣の金庫での保管コストを2%程度と言っていた。
このコストの率は高額紙幣になればなるほど低減できる。
逆に言えば、高額紙幣が廃止されれば、倉庫保管は不利になっていく。

マイナス金利政策はすでに下限に

仮に日欧での保管コストが同程度だとしよう。
1万円紙幣と500ユーロ紙幣が同じぐらいのスペースをとると仮定すると、保管コストは

 2% × 10,000/63,000 = 0.31%

現在のユーロ圏のマイナス金利は0.3%だから、保管コストと見合っている。
これ以上ECBがマイナス金利を引き下げても、市中銀行は金庫保管で対応できることになる。
つまり、500ユーロ紙幣が存在する中では、ECBのマイナス金利は実質的に下限に至っているのだ。

こんな観測は、あまりにもゲスというものだろうか。


山田泰史山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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