スティグリッツ:実質金利を-4%にしたって何も起こらない

ジョゼフ・スティグリッツ教授がマイナス金利政策について検証している。
金利を政策手段とする中央銀行のモデルは間違っており、信用供与のフローに目を向けるべきと提言している。

スティグリッツ教授は、マイナス金利が成果を上げた例はまだないとし、むしろ不測の事態を引き起こし、貸出金利が上昇した例があると指摘する。
こうした政策不全の背景にあるのは、中央銀行の危機前の経済モデル(数式や心理)がひどく間違っているためだという。
いずれも危機を予見できなかったし、その後、ほとんどの国が完全雇用を回復できていないからだ。
中央銀行のモデルでは、金利が主たる政策手段であり、そうした古いモデルがマイナス金利をもたらしたと分析した。
しかし、プラス金利からの類推はうまく働いていない。

スティグリッツ教授は、《大企業がたくさんの投資案件を用意しており、金利低下とともに実行に移す》という見方はばかげているという。
現実には、すでに大企業は過剰な供給力を抱えているため、金利が低下したからといって投資はしないのだ。
資金需要のある欧州の中小企業は、ECBのマイナス金利の前も後も、借金ができない状況だ。
さらに、銀行の貸出金利は国債利回りほど低くないし、担保が必要な場合もある。
教授は

エコノミスト以外の人にはショックかもしれないが、中央銀行の標準的な経済モデルでは、過去数十年、銀行は機能していない

と書いている。
実体経済の需給に不均衡がある状態では、金利による経済調節は働かないという意見である。

実質金利(国債利回り)が-3%や-4%になったとしても、何も起こらない。
マイナス金利は市中銀行のバランスシートを悪化させ、銀行は貸すインセンティブを受けるより、『資産効果』に走ることになる。
中央銀行は用心しないと、貸出金利は上昇し、借入はしにくくなりかねない。」

実質金利が-4%というのは、政策金利を-2%にして期待インフレを2%にするレベル。
ディスインフレ進行中の今からすれば、高いハードルだ。
その高いハードルを越えても果実が得られないと、スティグリッツ教授は言っているのだ。

さらに、スティグリッツ教授は3つの問題を提起する。

  • 低金利は資本集約的な技術への投資を有利にし、長い目で見れば労働の需要が低下する。
  • 高齢層の金利収入が減るため、消費が減少し、株を持つ大金持ちの消費拡大を打ち消して、総需要が減少する。
  • リターンを求めて投資家がよりリスクの高い資産に投資するため、経済の金融不安定化リスクが大きくなる。

ほぼ全面的なダメ出しだ。
では、スティグリッツ教授は、中央銀行に何を求めているのだろう。
教授は、信用供与のフローに集中しろという。
「地域銀行の中小企業向け融資の能力・意思を回復・維持させる」ことだという。
今のように大銀行ばかりに目を奪われるのではなく、信用供与の役割を担う無数の小さな銀行こそ重要だという。
それこそが、信用創造と投資・雇用・成長に資するチャネルなのだという。

(出典)
1) Joseph E. Stiglitz, Project Syndicate (4/13/2016), 「What’s Wrong With Negative Rates?」, https://www.project-syndicate.org/commentary/negative-rates-flawed-economic-model-by-joseph-e–stiglitz-2016-04 (参照4/14/2016)