ローレンス・サマーズ:金融政策で需要不足は解決できない

ローレンス・サマーズ元財務長官(ハーバード大学 元学長・現教授)が大学雑誌のインタビューに応えた。
その中で、趨勢的停滞論を概説し、今必要とされる政策を提言した。

サマーズ氏は先進各国の長期金利が極端に低位にあり続けている点への注意を喚起する。
これは、市場の経済に対する極度に弱気な見方を示唆しているからだ。
市場は、10年あまりにわたって2%インフレ率に届かず、実質金利がゼロよりさほど大きくならないと見ている。
サマーズ氏は言及していないが、次の興味は、この実質金利が実質成長率を反映するものなのかであろう。

サマーズ氏は極度に低い長期金利が1930年代にも起こったとし、Alvin Hansenが提唱した「趨勢的停滞論」を紹介する。
経済が、物的資本投資への傾向よりはるかに高い貯蓄への傾向を有している状態だ。
こうした場合、普通なら金利が低下することで貯蓄が減り、投資が増え、均衡に至る。
ところが、ここでゼロ金利制約が効いてくる。
皆が現金を保有すれば、金利はゼロで止まるはずだし、超低金利は金融バブルを生むため嫌われるはずだからだ。
結果、投資がすべての貯蓄を吸収するのに十分な金利低下は起こらず、低成長・低インフレ・低金利が起こる。

サマーズ氏は、こうした貯蓄過剰・投資不足の一因がIT産業などによる「脱マス化」にあると考えている。
経済の供給力のすべてを吸収するにたる需要を金融の安定を維持したまま生み出せる時代は終わったという。

こうした分析から、サマーズ氏は解決策を列挙した:

  • インフラ投資の拡大: 金利は安いのだから老朽化した空港、学校、水道、航空管制システムを更新・新規導入すればいい。
    公共投資は短期的には雇用を増やし、中期的には経済の供給力を増やし、補修先延ばしを防ぎ、子供たちの世代の負担を減らす。
  • 民間投資の刺激: 脱石炭と環境にやさしい発電。
  • 税制改革: 租税回避を防ぐための改正が必要。
    租税回避をやめるふりをする企業に恩恵を与えるような制度はだめ。
  • 移民政策: 熟練労働者や起業家を逃がさないように。
  • 輸出積極化策: 貿易協定、輸出の安全管理、The Export-Import Bankの拡大。
  • 住宅政策、最低賃金・労組幹部の処遇改善による格差縮小・支出拡大・需要増・経済成長

ここで挙がっているのはいずれも財政政策・構造改革であって金融政策ではない。
金利低下で需給ギャップを埋めることは、ゼロ金利制約の中で不可能と考えているからだ。
では、なぜ日欧はマイナス金利を続けるのか。
金利低下よる通貨安というチャネルを狙ったものであり、他国から需要を奪い取ろうという作戦だからだ。
ところが、最近の国際社会はこの抜け穴もふさごうとしている。

(出典)
1) Harvard Magazine (4/15/2016), 「Larry Summers Reflects」, http://harvardmagazine.com/2016/04/larry-summers-reflects (参照4/16/2016)