加藤出氏:インフレ率は上昇したのに経済成長率は悪化した

東短リサーチ加藤出氏が日銀の金融政策の効果について厳しい見方を突き付けている。
金融調節の名を借りた円安誘導の道が閉ざされていく中で、リフレ政策の行く手はますます暗いと感じさせる内容だ。

加藤氏は最近のさまざまな調査結果から、国民が景況感を厳しく見ていること、インフレを歓迎していないこと、低金利を歓迎していないことに注目する。
さらに、もっとも望ましくないこととして、そうした見方が日銀と異なる方向性にあることを指摘している。
「日銀が大胆な緩和策でどれだけ金利を押し下げても、国民が日本経済の将来を悲観していたら、企業の国内での投資や、家計の消費は活発にならない」と加藤氏は指摘する。

日本のGDPの6割を占める家計消費がなかなか活発にならない。
失われた10年の初期には、低金利が消費を冷やす一因となった。
そして、今や金利はゼロに等しく、もはや金利は家計にとっての変数ではなくなった。
金利の代わりにデフレが貯蓄のメリットとなっていたが、日銀はデフレ退治に着手した。
日銀がインフレを持ち上げようとするが、十分な賃金上昇がともなわず、家計は防衛的なメンタリティに向かう。
これではGDPは伸びない。

日銀は、インフレ期待を醸成すれば経済が良くなると言ってきた。
3年経って何が起こったか。

「実質国内総生産(GDP)成長率(四半期ごとの平均、年率換算)はアベノミクスの3年間はプラス0.68%と、10-12年の3年間のプラス1.39%から低下した。
つまり、インフレ率は上昇したのに経済成長率は悪化したのである。」

これは、中国の懸念や原油安のような一時的な特殊要因によるものなのか。
それとも、インフレ=経済回復という公式の誤りなのか。
加藤氏は

日銀は実質金利の低下は経済を上向かせると度々主張している。
しかし、それによる効果の本質は、将来の消費や投資を手前に持ってくる「前借り」効果である。

と書いている。
加藤氏のような現実主義的なエコノミストからすれば、金融政策、そしておそらく財政政策もほぼゼロサムなのだろう。
前借りをすれば、後でつけを払うことになる。
前借りをして今の状況なら、そのつけを払う段はさぞかし厳しい経済環境に置かれるのではないか。

消費増税も似たような話だ。
消費増税が経済に大きな影響を及ぼすのは間違いない。
だからといって、軽々に先延ばしすべきものか。
今つけを払えないなら、つけを払える状況とはどういったものなのか。
つけを積み上げることが本当に経済の回復に資するものなのか。

2015年10月に消費増税を済ませていれば、日本は今はるかに楽なスタンスで政策を考えることができていたはずだ。
税収が減っていた可能性もあるが、不利益側へのルール変更を考慮する必要がなかった。
避けられない増税を視野に入れながら、財政拡大を考えれば、自由度を大きく減らしてしまう。
しょせん結果論にすぎないのだが、世の中とは予期せぬ特殊要因の積み重ねでもある。

面白いと言えば不謹慎だが、不気味なほどに悪い予感はあたる。
リフレ政策が正しいなら、ハッピー・エンドが訪れるはずだった。
仮に、リフレ政策が予期した結果をもたらさないなら、それでも前に進むだけしかないようだ。
《進め一億火の玉だ》でもあるまいが、黒田総裁には迷いがないし、そのように政策委員も入れ替えてきている。
おそらく、この金融政策が金融調節だけを目的としたものではないからなのだろう。

(出典)
1) 加藤出, 日経電子版 (4/18/2016), 「国民は日銀の姿勢に共感していない」, http://style.nikkei.com/article/DGXMZO99597120T10C16A4000000 (参照4/18/2016)