コチャラコタ:マイナス金利に必要な対話と現金への課金

Narayana Kocherlakota前ミネアポリス連銀総裁が、マイナス金利政策はやり方次第で強力なツールになりうると主張している。
コミュニケーションの徹底や現金保有への課金によって効果がさらに発揮されるという。1)

日銀がマイナス金利で失敗した理由

コチャラコタ氏は、マイナス金利実施にあたっての経済・市場とのコミュニケーションの重要性を強調する。
マイナス金利が自暴自棄の結果ととらえられてしまい、経済の信頼感を損ないかねないからだ。
コチャラコタ氏は、日銀のマイナス金利導入を悪例として挙げている。

日銀のマイナス金利が(為替などの面で)逆効果となったのは、ある程度必然であったかもしれない。
サプライズ重視の政策運営を続けている日銀には、マイナス金利実施について事前にコミュニケーションをとる選択肢はなかった。
目をつぶってどちらに転ぶかわからない施策を実行したのだから、裏目に出る可能性は十分あったことになる。

コチャラコタ氏はデンマークの例を挙げ、日銀の二の舞にならないための秘訣を紹介している。
デンマークの中央銀行は、マイナス金利の導入にあたって政治からの支持を得ることに注力した。
法律を作り、政策の目的がクローネ/ユーロの為替レートの安定にあるとの趣旨を徹底した。
こうした周到な導入がデンマークでのマイナス金利の成功の背景にあるという。

マイナス金利は万能か?

こうしたコチャラコタ氏の主張はもっともなものだ。
マイナス金利は量的緩和に比べてもはるかに理論的にすっきりしている。
ゼロ金利の延長線にあるため非伝統的金融政策と呼ばれることもあるが、仕組みは実は伝統的金融政策そのものだ。
マイナス金利は、金利を下げるという伝統的手法の一局面なのだ。

一方、コミュニケーションを徹底すればマイナス金利が成功するという話も単純すぎるように思える。
デンマークのような小さな経済はともかく、日米欧のような大きな経済でも本当に赫々たる成果を上げうるものだろうか。
クローネのようなエグゾティックな通貨なら為替を心地いいところで安定させることも許されるかもしれない。
しかし、これがドル・円・ユーロとなれば話は別だ。
仮に求める効果が上がったとしても、副作用はどうなのか。
金利がマイナスに深く沈む過程では、さまざまな金利の符号逆転という境界を乗り越えなければならない。
その時点でさまざまな未知の現象・困難が起こっている。

何のための金融政策・通貨なのか?

そして、最後の質問は、どこまで金融政策を追うのかということ。
金融政策は強力な手段だが、他の手段も合わせた総合的な政策ミックスの中で、まだ金融政策を追う必要があるのか。

コチャラコタ氏は、マイナス金利を進めるためには現金保有に課金する必要性があると説明する。
預金・債券をマイナス金利にすればタンス預金(=現金保有)が増える。
タンス預金にも同様のペナルティを課すため、何らかの課金が必要というのである。

「例えば年6%の課金がなされると見込まれれば、人々の心を動かすことができるだろうことを中央銀行は認識しなければならない。」

なんとも本末転倒の議論をしているように聞こえる。
年6%の現金への課金が人々を投資・消費に向かわせるのは間違いない。
しかし、同時にそれは通貨の最大の役割の一つ、価値の保存機能を放棄することに他ならない。
金融政策は、通貨の価値を大きく貶めてまで、景気を刺激すべきなのか。
金融政策とは、景気とは、何のためにあるのか。

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