【書評】現金の呪い-紙幣をいつ廃止するか?

価格変動とインフレが問題

一方、ロゴフ教授は、現状ビットコインが十分に「通貨本来の役割」を果たしていない理由を2点挙げている。

  • ビットコインの価値変動が大きすぎる。
  • 暗号通貨はデフレでなくインフレが懸念される。

このうち後者は相当に本質的な問題だ。

(ビットコインに発行)上限があるからにはデフレが心配だという人もいる。
世界の経済成長が続くのに通貨の供給量が制限されていたら、デフレになるというのである。
だが、それはちがう。
懸念すべきはインフレである。

ビットコインの問題はインフレ

ビットコインが人口に膾炙され始めた頃、実は筆者もビットコインの限界がデフレにあるのではと疑っていた。
発行上限のある通貨が対象とする経済活動を拡大すれば、金融は恐ろしく引き締め的になる。
実際、ビットコイン建てで見れば、物価はどんどん下がっている。
ビットコインの価値が上昇すると皆が信じているうちはいいが、いつかその思い込みが一服すれば、対象とする経済が縮小を始めるのではないか。

しかし、これは杞憂だった。
暗号通貨はこの問題をクローンを誕生させることでいったん回避したのである。
イーサリアム、ビットコイン・キャッシュなど、すでに暗号通貨は千種類以上もあるという。
つまり、ビットコインに発行上限があっても、暗号通貨には発行上限はないのだ。
これは長期的な価値の維持に疑問を投げかけるものであり、短期的な変動とあわせて「価値の尺度や交換手段」の提供を難しくしている。
ロゴフ教授は通貨の経験則を語る。

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