シラーCAPEレシオが1929年を抜く

資産価格の実証的研究で2013年ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授が開発し計算している「シラーのCAPEレシオ」がついに大恐慌直前の1929年の極大値を抜いた。
シラー教授の公表データによると1月のCAPEは33.60倍となり、ドットコム・バブルの2000年に次いで史上2番目の高さとなった。

シラーのCAPEレシオは株価収益率(PER、P/Eレシオ)について、次の2点を改善したもの。

  • 周期性のある企業収益について10年間の平均を用いて平準化する。
  • その間のインフレの影響を物価指数を用いて取り除く。

シラー教授による米国株のCAPEレシオは次の通り。

シラーのCAPEレシオが1929年を抜き史上2番目に

このデータを見る限り、米国株の割高感はどんどん強まっていることがわかる。
その潜在的脅威はドットコム・バブル崩壊や大恐慌に匹敵するものと言うべきなのかもしれない。

ただし、実際のトレーディングへの応用については注意が必要だ。
CAPEレシオによる単純なマーケット・タイミング戦略は功を奏しないことが知られている。
割高・割安を正しく示すことができたとしても、売買のタイミングまで教えてくれないからだ。
したがって、トレーディングへの単純な応用は望ましくない。
しかし、これまでの米株式市場で見る限り、事後的には正しい、つまり、CAPEレシオが中央回帰することが知られている。

日本株のCAPEレシオ

1990年以降の日本株のCAPEレシオは次の通り。
PERよりは役に立ちそうだ。

東証一部の単純株価平均、PERとCAPE

これでは最近の傾向が分かりにくいので、2007年以降にクローズ・アップしてみる。

東証一部の単純株価平均、PERとCAPE(近時)

2017年11月末時点でのCAPEレシオは21.9倍。
これを高いと見るか安いと見るかの判断は読者にお任せしよう。

浜町SCIでは、日本株についてはCAPEレシオがいっそう役に立ちにくいと考えている。
外需依存度の高い日本では、企業収益のぶれが相対的に大きく、PERやCAPEのぶれも大きくなる。
分母のEPSがしばしばゼロ近く、またはゼロ以下になる。
分母が小さいと倍率は発散し、ゼロ以下ではPERは計算できない。
だから、どちらかと言えば、CAPEレシオの方がまだましと言えるだろう。

日本ではCAPEレシオがどこにあろうと、世界経済がくしゃみをすると株価が大きく下落する傾向が強い。
だから、CAPEレシオがあまり役に立たないのだ。


阿久津 り子 大手電機メーカー、公的研究機関にて電気・電子分野の研究開発に携わった後、浜町SCI調査部にて技術・計量分析を担当

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