【書評】人生100年時代の資産管理術

カナダのヨーク大学でファイナンスを教えるモシェ・A・ミレブスキー教授が書いた個人の資産管理についての教本。
「リタイア後のリスクに備える」との副題がついている。

(amazon)人生100年時代の資産管理術-リタイア後のリスクに備える

不思議な魅力のある本だ。
日本でよく見る安手のノウハウ本ではない。
(訳者は野村證券ゴールベース研究会。)
不思議なことに、かなり理屈っぽい本なのだ。
だから、完全な初心者にはややとっつきにくいかもしれない。
一方、カナダや米国との制度の相違についてはあまり気にならない。
理屈っぽいことの恩恵だろう。

著者は読者に対し、自身のバランスシートを書き上げろと奨める。
この時点で、簿記の基礎がわからない人は何を言われているかわからないかもしれない。
しかし、これを乗り越えれば、楽しい頭の体操を始めることができる。

個人の財務諸表とは金融資産だけではない。
人的資本もまたフロー、ストックに大きな位置付けを持つ。
学歴や職能などが人的資本の価値を決め、労働からのキャッシュフローの源泉となる。
引退とともに、人的資本は主たる役割を終える。
金融資産だけでない財務諸表を、個人レベルでも思い描けと著者は諭す。

こうした枠組みを前提とすれば、投資商品だけでなく、保険商品、特に生命保険の本質を理解することができる。
こうした保険は人的資本に降りかかるリスクをヘッジするものだ。
これが、自分に必要な生命保険の規模を知るスタート・ラインとなる。

また、インフレについて論じた章では、現役世代があまり気づかない興味深い事実を伝えている。

真のインフレとは個人的なもので、みんなが一緒に動くような現象ではない。
・・・
高齢者用に新しく作られた指標であるCPI-Eによれば、加齢とともにインフレ率は高くなりがちである。

高齢者の消費バスケットを構成する財・サービスは相対的に価格上昇しやすいのだろう。
若いうちにインフレをあまり感じないからと言って、油断すべきではないのかもしれない。

こんな理屈っぽい本だが、とても読みやすく、多くのヒントが詰まっている。
しかし、それを引き出し、現実の投資プランにまで具体化するのは、ひとえに投資家側の責任だ。
あなたが投資について相応の知識を持った若年層なら、読んでみると面白いだろう。