【Wonkish】インフレ上昇は株価にプラス?

近時、特に米国で金利上昇が株式市場の脅威となりうるとの考えが広まっている。
一方で、インフレ上昇が株価にプラスとのコメントも見られる。
一体どんな金利上昇が脅威なのだろう。

ゴードンの配当割引モデル:

株価 = 今期の配当 ÷(資本コスト – 配当成長率)

を用いて、ざっくりとしたイメージを検証しておこう。
(厳密な議論ではなく一次近似の思考実験である点を理解されたい。)
 P: 株価
 今期の配当: d
 資本コスト: r(名目)
 配当成長率: g
とおくと、ゴードン・モデルは

P = d/(r – g)

となり、投資家にとって見慣れたものとなる。

(1) 金利上昇が株価に悪いと考える理由

近時、インフレ期待が高まり、金利上昇が予想されるにつれ、これが株価に悪影響を及ぼすとの見方が強まっている。
これは、式のrを大きくすることにあたる。
分母が大きくなるから株価Pが小さくなるとの推論だ。

(2) インフレ上昇が株価に有利とする理由

一方で、金利が上昇しても、それがインフレ上昇によるものなら(つまり実質金利が変わらないなら)、悪影響は及ばない、むしろ有利になるという意見がある。
この議論には隠れた前提がある。
それは、インフレ上昇にともない、配当成長率も上昇するという前提だ。
(r – g)のrもgもざっくりいって同じぐらい上昇するなら分母は変わらない。
つまり、Pも変わらないというわけだ。

さらに、インフレ上昇が起こると、株式市場の裏で株式に有利な変化が起こっている。
債券が下落するのだ。
単に債券価格が下落するだけでなく、実質金利が上昇しない場合、債券への再投資が有利にならない。
つまり、債券が不利になることで、株式がより有利になってくるのだ。

(3) 実質金利上昇は株価に有利か?

ここで1つ検討していないシナリオがある。
それは、インフレが不変で実質金利が上昇するというシナリオだ。
こうして起こる名目金利上昇は株価にどう影響するのだろうか。
金融政策なかりせばの場合で考えよう。

実質金利の上昇とは自然利子率の上昇を想起させる。
実質金利が上昇するなら、その分gも上昇すると考えるのはおかしな推論ではあるまい。
インフレは不変とおいたから、rとgは同じぐらい上昇することになる。
(r – g)は変わらず、Pも変わらない。

つまり、金利上昇とは、それが実質金利上昇によるものだろうが、インフレ上昇によるものだろうが、株価に対して中立なのである。
(もちろん粗いイメージの話であり、特に上昇幅が大きくなると、大きく異なる結果となりうる。)

(4) 金利上昇と株式の優位度

ここまでの議論をまとめると(上記前提の下で)金利上昇は株価に中立。
ただし、金利上昇の要因がインフレの場合、債券投資がより不利になるため、より株式が有利になる、となる。

ここで、金融政策(金融緩和)のある世界の話に移ろう。

(5) 金融緩和のある世界

金融緩和とはrをある程度抑え込むことによってgを高めようという営みだ。
中央銀行は市中金利を自然利子率より低い水準に維持しようとする。
主に名目金利に干渉することで、実質金利を望みの水準に誘導しようとする。
つまり、rが人為的に抑え込まれている。

だから、中央銀行がターゲットを強く意識し固執する限り、実質金利上昇は起こりにくい。
つまり、(2)のシナリオになりやすく、株価に有利という話がでてくる。

(6) 金融緩和解除による影響

金融緩和が解除されると、人為的に抑え込まれていたrが中立金利に向けて上昇する。
この時、実質金利は上昇するが、それは干渉がなくなったからであり、gは上昇しない。
(むしろ低下するかもしれない。)
(r – g)は拡大し、Pは下落する。

その背後で、債券は再投資が有利になり、過去と比べて魅力が増す。
つまり、株価は下がり、債券は過去よりましになる。

以上をまとめると

  • インフレ上昇による金利上昇(例:金融緩和時)は株式を有利に。
  • 実質金利上昇による金利上昇は
    • 金融政策のない世界なら、株式が少し有利に。
    • 金融緩和が巻き戻す場合なら、株式は不利に

といったイメージを持てばいいのだろう。
ただし、これは理屈の話にすぎず、現実がそのとおりになるかどうかはわからない。

識者、特にセルサイドの中には、こうした理屈をご都合主義に使う輩も存在する。
とにかく株が有利だ、と言いたいのだ。
また、節度ある識者でも、説明の時間・紙幅が与えられないために、説明の前提が明確でない場合がほとんどだ。
投資家は彼らの真意を用心深く聞き分ける必要がある。


山田泰史山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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