【映画】マネー・ショート 華麗なる大逆転

世はクリスマス。
たいしたニュースもなく、相場も荒れる様子はないので、のんびり楽しめるDVDを紹介しよう。

紹介するまでもないかもしれない。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は2015年のアメリカ映画。
別にお金が足りなくなった話ではなく、原題は『The Big Short』、空売りのショートの話。
金融やビジネスで良書の多いマイケル・ルイスの『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』(2010年)を映画化したものだ。

(アマゾン) ブルーレイ DVD 原著

2007年までの米住宅バブルと2007-08年のサブプライム/リーマン危機で莫大な空売り(CDSによるショート・ポジション)を仕掛けた投資家たちの姿が描かれている。
金融・投資をある程度理解している人たちにとって、とてもいい塩梅の映画だ。

リーマン危機など金融・経済危機を描いた映画は他にもある。
しかし、危機やそれに至ったメカニズムをきちんと説明しているものはあまり多くない。
詳細しても、なかなか一般人は理解しきれず、気が削がれてしまうだろう。
結果、はしょられるのだが、その場合、知識のある人からすると面白さが半減してしまうかもしれない。
この映画はところどころでいい塩梅の説明が入り、専門的というより常識的な解釈が与えられる。
リチャード・セイラー教授も出演し、住宅バブルで悪用され増殖した証券化商品の本質を端的に解説している。

その他2点、感慨に残る部分がある。
1つは、笑えるほどバブルが韻を踏むこと。
Ninjaローンなどサブプライム・ローンは、何度も証券化されることで、格付がジャンクからAAAへと変化していった。
分散ポートフォリオはシグマを減らすことはあっても、期待リターンを押し上げることはない。
それなのに、ジャンクの格付がどんどん上昇していく。
その理不尽を理解しているはずの格付機関や銀行が、高格付を無批判に提供し求める。

主人公のうちの数人がフロリダ州を訪れるくだりがある。
まだ、住宅バブルかどうか確信できない彼らは、実際のサブプライム・ローンがどうなっているのかを、家々を回って確かめようとする。
ほとんどの家はすでに延滞、夜逃げ、撤去しており、人はいない。
たまに人がいると、真面目な賃借人だ。
彼は、家主が延滞しているのを知り、不安に駆られる。

こんなサブプライム・ローン債権が多少のプライム・ローン債権と混ぜられ証券化され、何度も何度も再証券化されることで格付を上げている。
サブプライム・ローンが間接・実質的に高格付を得ることは何を意味するか。
1つは、個々のサブプライム・ローンを借りやすくする。
商業銀行・住宅ローン会社の貸出プロセスはグダグダになり、利益のために一般顧客に多く金を貸そうとする。
映画では、家を何件も保有するストリッパーが登場する。
彼女は変動金利で借りているが、金利が上がるようならいつでも固定金利にスイッチできると説明を受けている。

プロがゴミを宝に仮装し、一般人を勧誘する構図は、申し訳ないが、暗号資産やミーム株を連想させる。
一般投資家が理解してやっているならよいが、そうでないなら、また後にバブルの物語の1ページに加わることになるかもしれない。

もう1つ思うのはショートの辛さだ。
主人公たちはぞれぞれ証券化商品をショートし、最終的に報われ、莫大な富を手にすることになる。
原債権がゴミだったのだから、住宅バブルについて、彼らの見立ては完全に正しい。
しかし、その正しいことをやっても、実る(証券化商品が下落し保有CDSが増価する)までには時間がかかることが多い。
その途中では追証を求められることも多く、途中で挫けて清算してしまった人もいたはずだ。
特に、当時のCDSは引き受け手の投資銀行が価格に対する決定力を有しており、彼らは証券化商品のプロモーターでもある。
CDSの価格は、彼らがCDSの買い手側に転じるまで抑制されたと映画は描いている。
延滞率が上がっても、原債権の価値が下がっても、CDSの価格は上がらなかったのだ。

不明朗な価格操作がなくとも、大きなマクロのショートをしてすぐに報われるという幸運はそうはあるまい。
通常、いくらか待たされるものだ。
その間、ショート・ポジションが評価損を拡大する時期もあろう。
ショートの損とは底なしの地獄のような恐ろしさがある。
自分が正しいと確信していても、その恐怖に耐え正気を保てるか。
ショート・セラーとして成功できるか否かの重要な要素だろう。

また、ショートについては異なるタイプの辛さもある。
それは道徳観との衝突だ。
特に、世界をひっくり返すようなマクロのショートをする時、自分の成功は世界の不幸になる。
実際、先述の真面目な賃貸人は家主の破綻により住居を失うことになった。
映画の最後に主人公の1人は、内在する不道徳を指摘し、それでも決断を迫られる。

ブラッド・ピットがいかにもいそうな元ドイツ銀行トレーダーとして存在感を出している。
クリスチャン・ベールがマイケル・バーリ氏を演じ、顔立ちは似ていないのにかなり似た雰囲気を醸している。

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