【休憩】現預金を持つことのリスク?

最近ちょっと面白い話を耳にした。
米企業が支払いサイトを短期化しているのだという。

米州向けに売上のある人が、顧客から支払いサイトを2か月弱から1か月にするといってきたらしい。
以前はたとえば、6月の売上は末で締めて8月半ばに受け取っていたらしい。
それが、これからは最短7月末に着金するという。
(おそらく顧客は6月中に送金しているのだろう。)

その人は単純に回収が早まることを好感していた。
かつて流行った《キャッシュフロー経営》という観点からは好ましいということになる。
もっとも日本はゼロ金利だから(信用度の高い顧客ならば)たいした効果はない。

逆に、もはやゼロ金利でない顧客側から見れば、通常なら不利益変更であるはずだ。
支払いを半月早めれば、その分の受取金利が減ってしまう。
FF金利誘導目標が5.00-5.25%の今、短期運用の利率だって相当高いはずだ。
なぜそんなことをしたのだろう。
思い当たる節があったが、私はあえて指摘しなかった。

その話を聞いたのは、シリコンバレー銀行が実質破綻して1月もたたない頃だった。
顧客企業は、銀行預金を持つことにリスクを感じ、預金圧縮に動いたのではないか。
かなり確率の高い推測だと思う。
預金保険でカバーされない預金を持つことを大きなリスクと認識しているのだろう。

さて、その話を聞いた時、あえて推測は述べなかった。
自分のことの見直しでしばらく頭がいっぱいだったのだ。
もちろん日本で金融危機が心配される気配はないが、リスク管理とはそういう事態にも一定の準備をする営みである。
日本の預金保険のカバーの範囲は、金融機関ごと、預けている保険対象口座残高の合計で10百万円+利息等とされる。
(金利ゼロの当座・普通預金は全額保護。)
貧乏が幸いして、私は通常そんな大きなお金を銀行に置いていない。

問題は、個人の証券口座だった。
利用している証券会社の1つでは、余資を預け金でなく銀行口座にプールするルールになっている。
(ルールなのか、私が選択したのかわからないが、とにかく証券会社はそれを推奨してきたのだと思う。)
この預金について、預金保険の対象と書かれていた。

対象だから安心できるわけではない。
これが意味するのは、何かあった時の預金保険には上限額10百万円が適用されるということ。
(もちろん、あるなら清算配当は受け取れる。)
証券取引の待機資金としては、この金額は小さいように感じた。
仮に預け金ならば分別保管されることで一定の安心感が得られる。
しかし、銀行預金だと、銀行のリスクをかぶることになる。

繰り返すが、現時点で起こりそうにないリスクだ。
でも、日銀が金融政策変更を始めると、ごたごたするかもしれない。
完全に無視していいテーマではなかろう。

まだ具体的な手当てをできているわけではないが、方針は決まっている。
似たような前例があったためだ。
筆者は大昔に米国に赴任していた時期があり、現地に証券口座が残っていた。
貧乏だからたいした金額は入っていなかったのだが、まぐれ当たりがあり口座残高が少し大きくなっていた。
この証券口座でも余資が系列銀行の預金にプールされる仕組みだったのだ。

この口座については、リスク管理という観点でなく対処していた。
米国でインフレが高まった時、銀行預金ではどんどん実質ベースで減価してしまうとの危機感が増したのだ。
そこで、預け金をゼロにするよう、短期債ETFを売買するようにした。
いわば手動スウィープだ。
売買頻度がとても低いので、これで十分だった。
(頻度の高い人はアルゴリズム等を検討されてもいいかもしれない。)
かくして、この口座について多額の銀行預金を抱えるリスクは去った。

国内口座についても似たようなことをすればよかろう。
「Buy low, sell high.」の投資家なら、今は売りのタイミングだ。
長期投資家なら、売りは比較的負担の小さい営み。
のんびりできるうちに脇を締めておくのもいいのではないか。


山田泰史山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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