【書評】鎖国シンドローム – 「内向き」日本だから生きのびる

ミスター円こと榊原英資教授による社会論。
「鎖国シンドローム」といっても、内向きを非難する趣旨ではなく、日本の良さをもっと見直そうという内容だ。

最近の榊原氏の著書には氏の歴史観が強く現れている。
氏は行政官・経済人という枠を超えて、思想家という域に達していると思う。

いまだ市場の近くで右往左往している筆者からすれば、かつてのような市場のどろどろしたところを予知するような氏の言動に興味がある。
とは言え、本書のような、いわば歴史書も胸にしみる。
投資を息の長い営みとすれば、まさにこのような歴史観を持つことが必要だろう。

何より心を打つのは、日本人の中で誰よりも国際人である榊原氏が「鎖国」を悪いこととは考えていない点だ。
むしろ、適度な鎖国が和漢折衷・和洋折衷というような、社会にとってよりよい仕組み・文化を醸成していくと主張しているのである。
 自由貿易=唯一の真理
というようなアングロ・サクソン流の原理主義者とは一線を画す立場を鮮明にしていると言えよう。

いくつか金言を紹介しよう:

環境、安全、健康のどれをとっても日本は世界のトップクラスです。
つまり、成熟国家としては日本は世界の模範なのです。
・・・
残念なのは、多くの日本人が成長シンドロームから抜けきれず、成熟へのとまどいを感じているように思えることです。
そして、それが社会全体の閉塞感につながってしまっているのです。

榊原氏の言いたいことは、
 なんでもかんでも欧米にコンプレックスを持つべきでない
 成長ばかりが能ではない
 成熟国家として日本は最良の国
ということだ。

ここから導き出されることは
 国を開く時は、自国によく合った形を設計すべき
 そのために柔軟さのある国際条約が必要
 自国の良さを守るため、慎重に取捨選択をすべき
ということではないか。

円高になって輸出が減り不況になった。
円高になったのや輸出ばかりをしていたからだ。
なのに、不況から脱するのに唯一の道は輸出だというような愚かな議論が世に罷り通っている。
そのために副作用に目をつぶって円安を誘導している。
輸出が回復しても、それがまた円高圧力になる。
これでは抜け道にはなりえない。

そう言えば最近、海外でも似たような指摘が相次いだ:
 Bloomberg:「日本流」を見直すべき
 ジム・オニール:日本はハッピーな不況を甘受すればよい
日本の社会は考え方を根本から変える必要があるのではないか。
そんな気持ちを強くする著書である。