【書評】絶対こうなる!日本経済ここが正念場

榊原英資 青山学院大学教授と竹中平蔵 慶応大学教授の対談。
ミスター円 vs 元経済財政政策担当大臣という組み合わせだ。

軽いVB経営者 vs 渋い債券投資家のよう

この2人の印象と言えば、いつも平行線の続く議論ばかりというもの。
しかし、本書は驚くほどリーダブルなものに仕上がっている。
田原総一朗氏はじめ編集者の努力の賜物だろうと思うと同時に、実は両教授の認識は極めて近いものがあるのではないかと感じられた。
違うのは、認識に対する反応のスタイルだ。

本書を見ると一目瞭然だが、竹中氏の発言回数・量が多い。
ハーバード関係者らしく、ディベート用の理論武装が行き届いており、ペダンティックと感じさせるほどのうんちくが語られている。
こうした発言を読んでいて、私はIR発表に望むベンチャー企業経営者を思い起こした。
大量の情報と明るい未来、それに向かうための手段を次々と繰り出す。
年齢で言えば決してお若くもないのだが、言動はよくも悪くも若々しい。

一方の榊原氏は超現実主義者。
発言は少なく、口を開くと結論の一文のみ。
IR発表に望む債券ファンドのバイサイド・アナリストを思い起こす。
《そんな景気のいいこと言ったって、できないでしょ》とか《そのプロジェクト、全体の成長にどれだけ効く話なの》とか心の中で考えていそうだ。
最後の言葉は《うちはお金は出しません》だろうか。

対照的な反応のスタイル

竹中氏は長くアカデミックの世界に身を置き、小泉政権で大臣に就任、経済行政を担った。
既得権益との闘いが目的ではなかったろうが、結果的に既得権益との闘いに明け暮れることになった。
この対談でも「既得権益」という言葉を何度も発している。

榊原氏は、大蔵省の異端児とは言え、日本の行政の中枢部に身を置き、財務省国際金融局長や財務官を務めた。
対談の中での田原氏とのやり取りが面白い:

田原 榊原さん、大蔵官僚時代は終始、改革派だったじゃないの。
あのときは、なりあいなんて絶対許せん、という勢いだったと思うけど(笑)。
榊原 年をとると保守的になるんですかね。
しかし、日本的制度のいいところは継続する必要があるのではないでしょうか。

退官されて16年経つが、確かに穏やかなもの言いに変化しているように感じる。
既得権益者への応援さえはばからない。

竹中氏を見ていると、《問題があって解決策が見つかるかもしれないのだから頑張ろう》と言っているように見える。
榊原氏を見ていると、《政治家も国民もバカで正しいことをやらないんだから、やれることをやろう》と言っているように見える。
この対談、とてもいいバランスだと思う。

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