【書評】21世紀の長期停滞論

福田慎一 東京大学教授が上梓した金融・財政政策、潜在成長率を高める上で重要な構造改革について解説した本。
よく言えばとてもオーソドックスかつスクウェアに書かれており、それを悪く言うならドラマティックさに欠けるということだろう。

アベノミクスについて言えば、多くのことが(できた、できないを含めて)決着した。
例えば、極端な円高は早々に解消できたが、2%物価目標はほぼ実現不可能とのコンセンサスができている。
その中で、まだ決着がついておらず、できないことと看過できないことが1つ残っている。

それは財政再建であり、さらに分析を突き詰めれば、なぜ日本国債の利回りが低いままなのか、であろう。
債務対GDP比率はグロスで先進国トップ、ネットでギリシャに次いで2位の悪さ。
ギリシャはデフォルトしている国家である。
これほど財政状態の悪い日本の国債が低利回りである理由を福田教授は大きく2つ挙げている:

  • 国内の金融機関に偏った特異な国債の保有構造:
    銀行・年金・保険などに預けられた資金が向かうべき先が他に少ない。
  • 日銀による長引く超低金利政策:
    「いまや、日銀による国債の大量購入が、利回りが低水準で推移する最大の要因になっている」

極めてオーソドックスな分析である。
そもそも、日銀が長期金利ターゲットを導入した時点で、日本の国債金利はほぼ市場金利としての性格を失っている。
イールド・カーブのすべてを完全に規定しているわけではないが、日本の国債金利は事実上規制金利であると言った方が適当だ。
債券流通市場では日銀の国債買入れにより玉が枯渇し、商いが極端に細っている。
もはや、日本の債券には市場性のある金利など存在しないのであり、その金利を市場金利として議論することの意味はほとんどなくなっている。

これに関連して最近心配なニュースがあった。
Reuterによる若田部 日銀副総裁のインタビュー記事である。
総じて物価至上主義的リフレ論なのだが、金融緩和が放漫財政につながるリスクを尋ねられ、副総裁はこう答えている。

「財政への警告機能が損なわれているのではないか、という批判があることは承知しているが、財政の状況を測る指標は、金利だけではない。
例えば、日本のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)プレミアムは低位で安定している」

目を疑う記述だ。
日銀による国債の大量購入がCDSプレミアムを押し下げていることを考慮していない。
イールド・カーブ・コントロールとは日銀が金利ターゲットまでどこまでも国債を買うという約束だ。
値が下がれば日銀が買うというのだから、そんな債券のデフォルトを議論すること自体ほとんど意味がない。
だから、CDSプレミアムは低位で安定しているのだ。

自由市場を標榜する市場関係者からすれば、度を過ぎた国債買入れはデフォルトそのもののように映るかもしれない。
ステルス・テーパリングしても長期金利がさして上がらない現状は、日銀が2つの失敗を犯したのではないかとの疑問を掻き立てる。

  • 日銀自身が認めているように量(マネタリー・ベース)拡大には効果がなかったのに、追加緩和までしてバランスシートを拡大させてしまった。
  • 金利押し下げに必要な量以上に、無駄にバランスシートを拡大させてしまった。
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