【書評】財政破綻後 危機のシナリオ分析

日本で財政破綻が起こった時、何が起こるか、何をしなければならないかを議論した本。
著者には財政についてのタカ派の重鎮の名前が並ぶ。

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幅広い観点、特に政策決定者の視点で書かれているが、生活者・投資家にも役立つ視点が含まれている。
この本の手柄は、まず、現実的ということだろう。
世の中にはハイパーインフレの到来を声高に叫ぶ終末論者も見られる。
しかし、そういう人・メディアは言葉の意味からしてきちんと定義していない。

例えばハイパーインフレという言葉1つとってみても、人々の捉え方はばらばらだ。
Phillip Caganの定義を用いるなら「月間物価上昇が50%を超えた時点で開始し・・・」という規模感であり、仮にこれが1年続けば12900%の物価上昇になる。
日本政府の債務のほとんどが円建てで、債券保有者のほとんどが国内投資家であることを考えれば、こうしたインフレが起こる確率は考える意味がないほど低いだろう。
1970年代のオイル・ショックの時期、物価上昇率は瞬間的に前年比25%程度まで跳ね上がった。
これは月間上昇率50%に比べればとるにたりない水準だが、日本は大騒ぎであり、国民生活は混乱した。

つまり、ハイパーインフレとは考えてもしかたのない状況に近く、そうした終末論を話す意義は小さい。
(もちろん、そうならないようにすることは重要だ。)
賃金が上昇しにくい現状を考えると、むしろ、もっと低いインフレについて、脅威を考えるべきなのだ。

本書では「財政破綻」を次のように定義している。

本書における財政破綻とは、さしあたり『緩やかな(2%程度以下の)インフレ率のもとで、正常な(4%程度以下の)名目金利を維持できない』を指すとしておきたい。
つまり、『財政破綻とはインフレ率または名目金利が高騰する状態』を指すのである。
このような意味での財政破綻は、市場参加者の国債への信頼が失われればいつでも発生しうる。

つまり、インフレ2%、名目金利4%を大きく超えるようになると、日本の財政が持続不可能になりかねないと考えているのだ。
年間12900%の物価上昇を想定するのにはたいした意味はないだろうが、日銀の物価目標を超える物価上昇を想定するとなれば、それは驚くほど近い現実となる。
本書は退路を断たれた日銀の状況を解説する。

  • 経済回復後も国債買入れを続ければ、貨幣が増えすぎてインフレが止まらなくなる
  • インフレ退治のために買入れをやめれば、金利が上昇してしまう

上記の「財政破綻」の定義を回避することは難しいように感じられてしまう。
単純な論理だけから言えば、経済回復前に量的緩和を止めるということだろうか。
これは、つまり、上げ潮派の論理を諦め、比較的低成長の中で財政再建を目指すことを示唆するように見える。
ただ、こうした選択肢が選択される気配はまったくない。

本書にはもう1つ興味深い部分がある。
いつ日本の財政が破綻するのか、その時何が起こるのかを考察した点だ。
財政破綻の1つの始まり方として、本書では「国内で国債を消化しきれなくなったとき」を挙げ、さらに2つのケースを想定する。

  • 「日銀がこれ以上、国債を買い支えられなくなるとき」
  • 「公的債務が国内金融資産を超過したとき」

よほどのこと(それこそインフレ急騰)がない限り、金利急騰に際して日銀が買入れをやめることはなかろう。
そうだとすれば、やはり家計の貯蓄が大きな助けとなるのだが、高齢化の中それにもいつまでもは頼っていられないのだろう。