佐藤元彦氏:なぜ30・40年債まで買うのか

やはり意外だったYCC

この内部矛盾を賢い日銀のスタッフたちが気づいていないはずもない。
多くの民間の日銀ウォッチャーも気づいていようが、10年までのイールド・カーブが平坦であるがゆえに議論されてこなかった。
7月の政策決定会合では長期金利ターゲットの柔軟化が決まり、今後イールド・カーブが立ち上がるなら、第一に見直すべきテーマの1つだろう。
実際、元日銀理事 早川英男氏元日銀政策委員 木内登英氏らも同様の問題提起をしている。

浜町SCIは実はYCC導入について国内メディアの中でも最も早く可能性を指摘していた1社だ。
2016年1月のマイナス金利導入によってあまりにもイールド・カーブ全体が低下してしまっていたため、これを予想せざるをえなかった。
「総括的な検証」の前月、2016年8月1日にはこう書いている。

国債買入れのペース変更については、QEテーパリングもありえるし、中長期金利ターゲティングもありえよう。
(金利を引き上げるプロセスでの中長期金利ターゲティングは比較的安全な方法だ。)

10年は長い

当時は長期金利ターゲットではなく「中長期金利ターゲティング」と予想していた。
大きく理由は3つあった。

ところが蓋を開けてみれば、ターゲットとするのは10年金利だった。
これは正直、意外な感じがした。
10年という年限を考えると、そのスパンで投資採算を考えるのは新規生産設備とか事業・株式評価だろう。
金融政策で新規生産設備を刺激していけないとは言わないが、やや苦しい理屈のようにも聞こえる。
やはり日銀は資産効果を直接的な需要刺激より重視しているのだろうかと考えた覚えがある。

保険、年金、銀行にとってのYCC

外野から見ていて興味深いのは、佐藤氏が30年債・40年債に言及したことだ。
日銀ウォッチャーがイールド・カーブの年限を見る時、どうしても景気刺激策として見るために、超長期金利への配慮は過小になる。
もちろん、保険・年金にとってはリターン・損益に大きな影響が及ぶ。
だから、自然とそこに目が行く。
これは、社会にとっても重要だ。
保険・年金が苦しめば、国民全員の生活の安心は損なわれてしまう。
ただし、これは信用創造とは少し異なる観点になっている。

銀行にとっては、債券ディーリングを除けば、超長期も長期もさほど関係ないかもしれない。
ただし、銀行の貸出の多くは短期金利連動になっており、顧客が望む場合はスワップ等で金利を固定させているから、ローンの需要にはいくらか影響する。
金利上昇期待が高まっていない現状では、金利固定のニーズはまだ高くないだろう。
だから、実のところ、現時点では銀行(の本業)にとって長期金利などたいした直接的影響はないのだろう。
ただ、長期金利がゼロとされることで中期ゾーンがマイナス圏に沈むのが問題なのだ。

つまり、現在のところ大きく2つの意味でYCCの長期側のペッグ年限を議論することへのインセンティブが働きにくい。

  • イールド・カーブが平坦なので、長期側が10年だろうが5年だろうが現実の金融政策に大きな変化はないと予想される。
  • 10年が5年になろうとイールド・カーブ全体が低位すぎるため銀行の窮状はほとんど変わらない。

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