揺れる米国債 – 暴落・ドル金利急上昇への序章か?

2006年7月まで中国人民銀行の金融政策委員を務め、中国金融政策に影響力を持つ、中国社会科学院世界経済政治研究所の余永定(Yu Yongding)所長が、
 「米国債をある程度売って、ユーロや円の資産を増やすべきだ」
と語ったと報じられた。
12月5日付「中国証券報」の記事として、本日の日本経済新聞が紹介している。

金融危機が続く現在でも米国債を買い増している中国政府に対して、余氏が異議を唱えたもの。
余氏は、急拡大する米国の財政赤字により、米国債の需給が悪化すると予想し、その時点で中国が売りに転じることは、中国の不利益のみならず、米国との利害衝突になると警告。
外貨準備の運用の多様化を求めている。

余氏は、昨年10月の21st Century Business Herald紙のインタビューでも、
米国は金融危機脱出のために少なくとも1兆ドルの支出を必要とする。
それをまかなうために、米国は国債をさらに発行し、ドル札を印刷することになる。
いずれの場合にも、債権国の利益を害するものだ。
米国債を買えば買うほど、損害が大きくなる。
と述べ、中国政府にこれ以上米国債を買わないよう促していた。

1997年6月23日の橋本首相のコロンビア大学での講演が思い起こされる。
「日本が米国債を買い続けることは長期的な利益となるのか」との質問に対して、橋本首相は
 「米国債を売却しようとする誘惑に駆られたことは、幾度かあります。」
と答えた。
発言は、その誘惑には負けないと続いたものの、証券市場は反応し、NY市場の下落につながった。
言わば、市場関係者なら誰しも気になっている喉に刺さった小骨なのだ。
いや、致命傷を与えうる、大きな凶器であり、タブーである。

今回の金融危機が100年に1回のものであるならば、このタブーから解き放たれる時も近いのかも知れない。
中国と日本がいつまでも我慢し続けたとしても、いつかは調整されなければならない。
いずれかが先に売りに転じれば、損失をいくらか減らし、もう一方に背負わせることができる。
正直者として損を引き受けるか、少しでも損失を減じるよう先に動くか、思案のしどころだ。