【書評】グローバリゼーションと基軸通貨-ドルへの挑戦

『グローバリゼーションと基軸通貨-ドルへの挑戦』は一橋大学 小川英治教授らによる国際通貨制度に関する論文集。

決して読みやすい本ではないが、各論文の丁寧な議論は様々な再発見の機会を与えてくれるだろう。
全体の構成は、タイトル通り、米ドルからの基軸通貨のバトンタッチがありうるかを意識したものになっている。
ここでは投資家にとって最も馴染みのある章、ブルームバーグの増島雄樹氏による「第5章 安全通貨としての円とドル」を紹介しよう。
リスク・オフの円高、リスク・オフのドル高を検証したものだ。

生産年齢人口が減少し、政府債務も拡大し続ける国の通貨である円が『安全通貨』として買われるのは、やや違和感がある。

投資家ならみんな感じているところだし、投資家ならみんな、この一因がキャリー取引の巻き戻しにあることを知っている。
とても「安全」という言葉が最適とは思えない。
増島氏は本章で呼び方を「避難通貨」に変えて議論している。
先行研究において指摘された避難通貨の要件を4つ紹介している:
 1) ファンダメンタルズ
 2) 流動性
 3) 低金利(キャリー取引の調達側)
 4) 大きなショックからの隔離
円やドルはいずれもリスク・オフで買われるものの、要因は相違点も類似点もあるとした。
円対ドルで見れば、従来の経験則どおり、円の方が「避難通貨として嗜好される傾向が強い」とした。
増島氏は2つ重要な発見を挙げている。

  • 「金融政策の変更に伴って、こうした避難通貨効果に変化が起こる」
  • 「経済のファンダメンタルズよりも、市場参加者のリスク態度が、避難通貨効果の決定要因として重要な位置を占めつつある」

裏を返せば、円について言えば、日銀が金融緩和の出口に向かったり、ファンダメンタルズ(債務問題)に注目が集まったりすれば、状況が大きく変わりうると示唆している。

この本には時々当たり前だが面白いアングルが呈示される。
準備通貨が通貨安を放置し続けると、うべかりしシニュレッジを取り損ねるなどもそうだ。
図書館などで借りて眺めてみるといい。

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