結局バランス型投信とは何なのか?

コロナ・ショックのあおりで「バランス型投資信託」から資金流出しているのだという。

(初めに断っておくが、私がバランス型ポートフォリオとしてイメージするのは、長期投資を意図した資産形成のための運用方法だ。
この前提が正しい保証はない。
バランス型に他の意義を見ている人は、この後を読むのは時間の無駄になってしまうので、別の記事を読み進んでほしい。)

看板に偽りあり。
ヘッジ・ファンドの多くがその呼称に見合うだけリスク・ヘッジを行っていないのと同じように、バランス型投信も必ずしも常にバランスをとっていないようなのだ。
バランス型ポートフォリオと分散ポートフォリオとは同義ではない。
いずれも複数の資産クラスまたは銘柄に分散投資するが、前者は分散する上にバランスもとると宣言している。
抽象的には、最適と思われるリスク配分(これが期待リターンも決める)を定め、分散投資するものと考えてよいだろう。
ところが、バランス型には様々な亜種が生まれている。

1. レバレッジ型

これは以前論じたように、少々意義を理解しがたい。
長期投資を前提とするなら、対象にならないのではないか。

実際、今回の下げ局面でレバレッジ型からの資金流出があったという。
多くの資産クラスが売られる中、レバレッジがかかっているのだから、みんな逃げ出したのだ。
投資家自身に長期投資の意思がなかったとした思えない。
あるいは、市場が永遠に下げないとでも思ったのだろうか。

2. アンコンストレインド・ファンド型

環境に応じて、資産クラスとバランスを臨機応変に最適化するのだという。
筆者はこれがバランス型なのかと首を捻る。
未来永劫バランスを変えるなとは言わないが、あんまりちょくちょく変えられるのならそれをバランスというべきか。
何でもありのアンコンストレインド・ファンドではないか。

ほとんどの資産クラスが下げている時、バランス型ポートフォリオが下げるのは当たり前だ。
そんな中、上げる商品があったとすれば、それも心配になる。
何か独特のやり方をしているのではないか。
今後もアウトパフォームが続くと考えていいのか。
いずれにしても、数か月の基準価格の変化で判断のつく話ではない。

この型がアンコンストレインド・ファンドの性格を持つ以上、長期投資に用いるかどうかは、明確にファンドの性質を意識して決断することが大切だ。
ポイントは2つ。

  • 価格変動: どの程度の大きさの価格変動が見込まれるか。
  • 運用者の腕: 資産クラスやバランスについて運用者が良い腕を持っているか。

この2点で納得できれば、長期投資に利用してもいいのだろう。

2a. 損失限定型

いつもはバランス型だが、危なそうになると手仕舞いして、ダウンサイドの小さい資産クラスに集中するのだという。
これも運用者の裁量は小さくない。

中には、繰り上げ償還までビルトインされたものもあるらしい。
仮に下げたら繰り上げとなるなら、長期投資とはイメージが異なるのではないか。

3a. 短期リスク・バランス型

最も単純なバランス型は、資産クラスごとのリスク配分を定め、変化があるごとにリバランスするものだ。
問題は《変化》とは何かだ。
それは、資産金額の変化である場合もあるし、リスク・ウェイト(リスク÷資産金額)の変化である場合もある。
資産金額の変化とは主に価格変動だからわかりやすい。
問題は、リスク・ウェイトの変化とは何かにある。

短期トレードをしている人なら、たとえば短期のσリスク(ボラティリティ)が指標になりうる。
こうした投資家は損失を限定するために、とるσリスクの量に予算を設けていることが多い。
だから、次の2つの場合、対象の資産クラスを売る必要が出てくる。

  • σリスクが上昇する
  • 資産価格が上昇する

よく市場が急落するとリスク・パリティ・ファンドが犯人とされるが、それは、前者の連想から来る犯人捜しである。

さて、σリスクをある程度とれる投資家ならどうだろう。
例えば、もう少し長い期間投資をし、日々のボラティリティを許容できる投資家だ。
それなら例えばβリスクを指標にしてもいいかもしれない。
何をリスク指標とするかは(何を開示するかを別とすれば)運用者の見識にかかっている。

この亜種は、定義からして、長期投資向けとは言い難い。

3b. 超長期リスク・バランス型

最も愚直なバランス型だ。
長期投資を前提とし、市場サイクルを何度も乗り越える覚悟のある投資家にとっては、σリスクはおろかβリスクでさえリスクではない。
長い長い投資期間の中で、これらリスクは平均化してしまうからだ。
ウォーレン・バフェット氏が長期投資を奨めるのを聞いたことがある人ならおなじみの議論だ。

この場合、各資産クラスのリスク・ウェイトの時間的変化はあまり意味がなくなる。
結果、バランスは金額だけでとればいいことになる。
この場合、

  • ある資産クラスの価格が上昇すれば、その資産クラスを売る。
  • ある資産クラスの価格が下落すれば、その資産クラスを買う。

つまり《Buy low, sell high.》であり、この挙動は市場を安定させる方向に働く。
以前、レイ・ダリオ氏は、有名なオール・ウェザー・ファンドについて同様のことを話していた。

このタイプは確かに長期投資向けだし、逆に長期投資でなければあまり意味がないのかもしれない。

繰り返すが、単なるバランス型とは分散投資のことではない。
分散だけでなくバランスをとることにある。
目論見書等を見て、納得のいくバランスかどうか確認するのは言うまでもない。
(出来合いのバランスが気に入らないなら、他の商品を買い足して調整すればいい。)

亜種を整理すべき好機

いずれの亜種のポートフォリオも、それなりの役割が見出しうるのだと思う。
しかし、長期投資向けのバランス型となると選択肢はかなり狭まるのではないか。

何より大切なのは金融機関等の売り子が様々な亜種の意味合いを正しく理解することだ。
私は、大半の売り子たちがこれを正しく理解できているとは思えない。
星の数ほど棚に並ぶ投資信託の中で、バランス型という種のさらに亜種について理解できているか。
もしも、理解できていないなら、品揃えの段階で淘汰を進めるべきだ。
危機とは危険であり機会だと思うなら、この際コンセプトのはっきりしないものを無くしてしまえばいいように思う。


山田泰史山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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