流動性相場ナラティブとインフレ/バブル予想

今週とても興味深いことが起こった。

《永遠のブル》とあだ名されるほどの強気派ジェレミー・シーゲル教授と、債券投資家らしい慎重さを持つスコット・マイナード氏の米国株市場に対する見通しが突如として似てきたのだ。
まず、いつも強気のシーゲル教授から、意見の要点をおさらいしよう。

  • コロナ前: 米市場は概ねシーゲル教授の予想どおり上昇を続けた。
    年初も市場は絶好調。教授は速すぎる上昇に危機感を示した。
    小幅に下落すると、長期的上昇にむしろプラスと好感していた。
  • コロナ後: 強気を維持しながらも大きなリスクを認めていた。
    FRB・政府の救済策が出揃うと強気を強め、年内の市場最高値来年以降のインフレを予想した。

次にマイナード氏:

つまり、この段階まで、シーゲル教授の方がかなり良い率で当ててきているのだ。
1つの要因は、政策対応に対する前提の差だろう。
シーゲル教授は政府・FRBがどこまでも経済・市場に優しく振舞うことを前提としていた。
マイナード氏は、もっと節度ある政策が行われると考えていた。
結果、コロナ前においては節度のない政策がとられ、コロナ後では節度など構っていられない状況となった。
概ねシーゲル教授の想定どおりとなってきたのである。

ここにきてマイナード氏が大きく舵を切った。
理由は容易に想像がつく。
株価がピークを打ったというのが正しくないのがかなりはっきりしてきたからだ。
27日のツイートは、インターネット・バブル、住宅バブル、企業債務バブル(今回)に次いでさらにバブルがやってくるというものだった。

興味深いのは、対照的な考え方を経てきたシーゲル教授とマイナード氏が、ほぼ同等の結論に達した点だ。
2人とも異例に拡張的な金融・財政政策によって生まれたマネーが実体経済・金融経済に流れ込むと予想している。
その結果、シーゲル教授は株高と「穏やかなインフレ」が起こると表現する。
マイナード氏はバブルになると表現する。

バブル予想は極端と感じる読者もいるかもしれないが、マイナード氏の考えからすれば当然ともいえる。
同氏は昨年初めにはすでにサイクル終期の株価上昇を予想していた。
その後FRBは金融政策をさらに緩和している。
だから、コロナ前からすでにバブルの芽は存在していた。

コロナ・ショックでは、経済の悪化と救済策という両側の材料が拮抗している。
今後経済は、紆余曲折あるにせよ、緩やかに回復するだろう。
しかし、最近の中央銀行を見る限り、それに応じて金融政策正常化を実現できるとは考えにくい。
ましてや財政再建など影さえ見えない。
ならば、救済策だけ残される可能性が高い。
バブルを予想したくなるのも理解できる。

しかし、こうした予想はもちろん決まった未来ではない。
いくつか番狂わせを引き起こす要因もある。

  • インフレの政治問題化: シーゲル教授が予想する「穏やかなインフレ」とは年4-5%だという。
    国家から見れば「穏やか」かもしれないが、国民からすれば過酷かもしれない。
    実質賃金の推移いかんではこれが政治問題化する。
    そうなればFRBは利上げに追い込まれ、恒例通り景気を殺してしまう。
    利上げは財政引き締めをも促す。
  • 想定外の貯蓄増: ばらまかれたマネーが銀行から出ることなく、実体経済・資産市場に向かわない。
    リスク回避を強める家計・企業がお金を使わず、金融投資にも向かわない。

こうしたシナリオは実現の確率が高いとはいえないが、可能性として心に留めておくべきだろう。
特に日本では、後者の可能性は相対的に高いはずだ。

海の向こうでは、ショックのさなかにも関わらずバブル予想が出始めた。
もちろん多数派でもコンセンサスでもないが、最近の株価上昇を見ると、こうした意見も皆無ではないのだろう。