【書評】インフレ・ばらまき・円安スパイラル(佐々木融 著)

ふくおかFGの佐々木融氏が今年1月に上梓した本。
近々、タイトルとカバーを変えて再出版されるとの話があった。
佐々木氏によれば、新たなタイトルは「給料が上がらないと思う方はもう投資して下さい」といったニュアンスになる予定だという。

『インフレ・ばらまき・円安スパイラル』(Amazonリンク)

内容は旧題がよく表しているとおりで、最近の佐々木氏の畳みかけるような主張がまとまって平易な文章で書かれている。
上梓後の9か月の経済・市場は、まさにその主張のとおり展開してきたという印象だ。

内容は旧題がよく表していると書いたが、その一方で、このタイトルは本書のトーンにはあまり合っていなかったかもしれない。
本書の主張は堅固で説得力のあるものだが、書かれた文章はとても平易でわかりやすく読みやすい。
是非、高校生から20-30代の若い層に読んでほしい本になっている。
その意味で、アナウンスされた改題による再出版が奏功することを願いたい。

最近では、若い層がさまざまな理由から経済的ポピュリズムに同調する傾向が見られるが、現実の経済・市場は概して《いいとこ取り》を許してくれるものではない。
自らが支持する政策が、回りまわって自らの首を絞めるかもしれないことを理解することは重要だ。
この本は、それを理解するために必要な経済・市場の仕組みや現実をわかりやすく解説している。

読めばわかる文章であるため、内容を具体的に紹介する必要はないが、1点だけ根源的なテーマの部分を紹介しよう。
第一章の初め「『お金』は物々交換の代わりでしかない」と題された節で、佐々木氏はなぜお金が大切と考えられているかを端的に説明している。

「それは、お金が自分の努力や経験を通じて積み上げてきた価値を保存しているからです。」

お金の持つ3つの機能のうちの1つは《価値の保蔵手段》だ。
もちろん濡れ手に粟の利益を上げた人も世の中には少なくないのかもしれないが、ほとんどの人が保有する金融資産の大半は自ら稼ぎ貯めたお金だろう。
多くの人は本当につらい思いもしつつ貯めてきたのだろう。
その点を佐々木氏は「自分の努力や経験を通じて積み上げてきた価値」と表現したのだと思う。
いわば、苦心の末培ってきた自らの人的資本の果実なのだ。

その果実が手元にお金として残り、お金の《保蔵手段》によって、将来の支出まで「保存」されることになる。
そして、この「保存」の成否がインフレや通貨の価値によって大きく左右されていくことになる。

ほどよいインフレが継続し、政府の債務が緩やかに減価していくことは、通常起こり許容されてきたことだ。
問題はそのペースにある。
なぜなら、日本政府に対する最大の直接・間接の債権者は国民、家計だからだ。
政府の債務が減価すれば、国民の財産もかなり連動して減価せざるをえない。

インフレのペースは、生身の人間の所得とバランスが取れているのか。
少なくともこの数年、日本の多くの家計が感じているインフレ率はCPI上昇率どころではない。
そこで政府・日銀はどこまで拡張的財政・金融政策を採るべきなのか。

政府の骨太の方針では経済成長率の目標について「できるだけ早期に、実質で1%超、名目で3%超を定着させ、更に引き上げていく」とされている。
やけにたくさんの分野で大盤振る舞いを行い、政府自ら「コペルニクス的転回」と自画自賛するにしては、ずいぶんと控えめな目標だ。
確かに実質成長率を基調的に0.1%ポイントでも引き上げるのは決して容易なことではないが、こんな大盤振る舞いをしていては、あまりにも容易に名目値の目標ばかりが実現し、その裏腹として国民が貧しくなるのではないかとの不安もよぎる。

本書がさらに広く読まれるようになれば、様々な見方を知った上で人々が経済を考えるようになるのではと期待している。