【輪郭】10年経つとみんな忘れ、易きに流れる
最近、5月に行われた高市首相と植田日銀総裁の会談についての報道により多くの市場関係者が危機感を募らせる場面があった。
時事通信の報道内容(今月5日)はこうだ:
首相と植田総裁は5月22日に首相官邸で約20分間、会談した。
複数の関係者によると、首相はこの場で「内閣の取り組みを理解し、適切な金融政策を実行してほしい」と強調。
その上で、日銀が国債の買い入れ額を減らしていることに対して「市場安定のための適切な対応」を求め、必要な場合には国債を買い入れるよう要請した。
5月22日と言えば4月末からの為替介入の直後のことだ。
財務省「外国為替平衡操作の実施状況」によれば、4-5月の介入は
4月30日 6兆2,787億円
5月4日 7,802億円
5月6日 4兆6,759億円
合計11.7兆円に上り、2024年4-5月の介入9.8兆円を上回っている。
政府は円安が看過できないと考えたから4-5月に介入したのだろう。
それからわずか2週間あまり後、日銀に対して「必要な場合」とは言え国債の買い入れを要請している。
仮にそうなればさらなる円安の要因となることは市場関係者や為替に接している企業関係者ならすぐに連想したはずだ。
せめてもの救いは、日銀がその後も大きくハト派寄りにシフトしなかったことだろう。
6月の日銀の金融政策決定会合では、植田総裁が入院で欠席する中、政策金利が0.75%から1.00%に引き上げられた。
一方、心配なのは、同じ会合でQEテーパリングを2027年4月以降停止することを決定したことだ。
今にして思えば、すでに市場に織り込まれていた利上げは不可避だったが、政府の意向を汲んで長期金利上昇を防ぐための先日付でのテーパリング停止に協力したのだろうか。
日銀は2016年9月の総括的な検証に基づきイールドカーブ・コントロールを導入した。
これにより、短期政策金利と長期金利の両方を望ましい水準に保とうとしたのだ。
長めの金利をペッグするという手段については2016年3月にベン・バーナンキ元FRB議長が論文を公表している。
バーナンキ氏は金利ペッグの有効性を認めつつも、米国での採用は慎重であるべきとの趣旨を述べていた。
筆者は、長期金利のペッグはとても面白い手法だと思った。
筆者は日銀の総括的な検証の前月、日銀がそれを採用する可能性を述べている。
《可能性を述べている》というより、筆者はバーナンキ論文以降それを半ば推奨していたのである。
ポイントは何のためのペッグかにあった。
(次ページ: みんなが忘れている長期金利ペッグの目的)
