【輪郭】10年経つとみんな忘れ、易きに流れる

円安、ラグをともなって起こるインフレが問題になっている時に、財政も金融も拡張的であり続けている。
日銀が思い切った利上げを躊躇する1つの理由は、政府の莫大な債務による利払い負担、つまり財政従属にある。
仮に1960-70年代くらい日本の政府債務が小さければ、日銀は思うがままに利上げできただろうし、政府もそれを止めようとはすまい。
最近、円安の主因を実質ベースでマイナスの政策金利に求める意見が多いが、根っこの問題は財政の方にあるのではないか。
財政が改善に向かえば、自然と金融政策も正常化するのではないか。

そうした構図の中で、5月に政府が日銀に「必要な場合」とは言え国債の買い入れを要請したというニュースは、政府の強い意志を感じさせる。
政府は、少なくとも短期的には、ファンダメンタルズ改善による円安回避を考えていない。
何年も経てば積極財政の果実によりファンダメンタルズが改善すると夢見ているのかもしれないが、バブル後の日本の経済政策とその果実を見る限り、それが実現する確率はやはり低いと見るのが現実的ではないか。
政治家や官僚による投資が十分な果実を生んできたのなら、これほどまでに債務対GDP比率が上昇するのは不可解だ。

市場はそれを知っている。
政府が当面1ミリも譲歩しないと確信している。
だから、協調介入という力強いメッセージを発しても、わずか半月で半値戻しとなっている。

外圧もあまり効いていないようだ。
さすがに9月は利上げがあるだろうが、その先、十分な利上げをできるか、やった場合に財政がいっそう窮屈にならないか。
聞く耳を持たず積極財政を続ければ、円安・インフレが進まないか。
ついには経済・金融市場で事故が起こり、金融安定が揺るがないか。
世論が大きく変わり、政治情勢も大きく変わらないか。
政治が変わり、円相場が反転し、株価や債券価格が反転しないか。

投資は一点に賭ければよいものではない。
ギャンブルで言えば《多点買い》、投資で言えば《分散》を忘れないことも肝要だ。
特に、現在のように必ずしも持続可能とは思えない政策ミックスが進行中の時には、複数のシナリオを用意すべきだろう。


山田泰史山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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