【書評】2052 今後40年のグローバル予測

1972年に世界に衝撃を与えた『成長の限界』。
その40年後、著者の1人であるJorgen Randers教授が次の40年を予測した。

【送料無料】2052 [ ヨルゲン・ランダース ]

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あなたは何歳ぐらいだろうか。
もしもあなたが20-40代であるなら、今あなたが投資しているお金を使うのは30-50年も後のことかもしれない。
それなら、あなたは投資にあたって今後40年ぐらいの世界の変化を勘案する度量がほしいものだ。
この本は、その難しい仕事を肩代わりしてくれる。

『成長の限界』で語られた予想は当たったろうか。
本書の中には、すでに世界は「成長の限界に達した」との見方も紹介されている。
そこまで言うと、言葉の定義の問題のように思う。
少なくとも筆者は、成長の限界には達していないと思う。
この40年間、人類は随分、放漫な生き方をしてきたが、まだ限界には達していないと考えている。

 
『成長の限界』が外れたのだから、この本の予測も外れるのだろう。
40年先まで予測するのはそもそも不可能なのだから。
では、この本は役に立たないのか。
そうではあるまい。
まず、為政者に警鐘を鳴らす効果がある。
さらに、投資家にとっては、この本に説明されている定性的なシナリオを知っておくだけでも価値はある。
時間軸を正しく予想することは不可能でも、方向性だけは正しく理解しておくべきだ。

ここでは興味を引いた点を2つ紹介しておこう。

たったGDPの1パーセントで・・・

いくつもの研究が、「富裕国の温室効果ガスの排出量を半減させるには、GDPの1パーセント程度のコストがかかる」と結論している。
・・・
もしこの移行に10年かかるのであれば・・・毎年0.1パーセントずつ移行する。

日本のGDPを500兆円規模とすれば、実に5兆円で温室効果ガス排出量が半減できるというのだ。
これを10年かけて行えば、年5,000億円ですむことになる。
私たちが直感的に感じる金額よりかなり小さいのではないか。

エネルギー関連市場予想のいい加減さ

よく新たな代替エネルギーや省エネ・デバイスについて、「市場規模〇〇兆円」などという話が出る。
調査会社や業界アナリストなどが出す数字だ。
こういう数字が往々にして驚くほど大きい。
いや、驚くにはあたらない。
市場規模を小さく書けば、そのレポートは買ってもらえないからだ。

本書の「1%」という指摘を信じるなら、例えば
 CO2削減に寄与する新分野の国内市場規模は累計5兆円
という話を聞いたとすると、それはかなり高い確率でウソ(または、まやかし)ということになる。
なにしろ、排出量半減のために5兆円しか必要ないのだから。
その新分野だけで5兆円市場にはるはずはなかろう。

なぜ、いい加減な「市場規模は〇〇兆円」という話が溢れかえっているのだろうか。
実は、ウソとは言い切れないところがある。
正確にはまやかしなのである。

例えば、年10兆円の規模の分野があったとしよう。
この分野をエコ対応するのに、たとえば年5,000万円×10年かかると言えば実現味は増す。
つまり、「市場規模は〇〇兆円」は、純粋に新しい新分野と、従来からあった部分の和なのだ。
こういう形で、市場規模の予想というのは往々にして吹かされてある。
数字を示された時、くれぐれも気を付けたい点である。

凡人が一番知りたいこと

本書には「未来について八つの率直な質問」という章がある。
この質問から、いくつか紹介したい。

Q. 職は十分にあるだろうか

イエス。
・・・
紙幣を刷って失業率を下げることは可能なのだ。
・・・
エリートが愚かなために長く失業の問題を解決できないと、革命が起きる(革命とまでいかなくても、制度が揺らいで危機的状況になる)。

Q. エネルギー価格は上がるのだろうか

答えはイエスだ。
・・・
未来のエネルギーは現在の化石燃料ベースのエネルギーより30パーセント高くなると予測している。

Q. 米国から中国への世界のリーダーシップの移譲は平和裏に行われるだろうか

答えはイエスだ。
大前提として、2052年に中国は世界のリーダーになっていると私は考えている。

こんな具合に想像力をかきたててくれる本である。