植田和男教授:長期金利はどこかで急速に上がる

日銀審議委員や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)運用委員長などを歴任した東京大学の植田和男教授が、長期金利の急騰が近づいているとBloombergに語った。
2003年のVaRショックを日銀審議委員として経験した植田教授らしい危機感だ。

(本格的な物価上昇が)誰の目にも明らかになり始めれば、ものすごい勢いで債券が売られるリスクがある
政治家は日銀がもっと国債を買えばよいと思うだろうが、引き締めに転じないといけないので債券はもう買い増せない、怖い局面に突入していく

と語った。
異次元緩和が早く成功すればするほど「怖い局面」が近づいてしまうわけだ。
植田教授によれば、現在、政策担当者にやれることは少ないという。

何をしたらよいか分からないというのが、政策担当者が皆ぼんやりと思っている不安だ
(有効な政策手段は)あまりない
無理に抑えようとしても無理だ
多少の犠牲者は出る

そのとおりだろう。
市場とは合理的に動くものではない。
仮に政権や立法府が正しい行動をとっても、短期的な市場の動きをコントロールするのは不可能に近い。
ここでの正しい行動とは何と言っても財政再建なのだが、仮にそれが実行されたとしても金利は上がりうる。
平均への回帰とは理屈のない人類の癖だ。
それほど現在の金利水準は歴史的に低位にある。

植田教授は

怖いのは長期金利が4-5%まで上昇してしまう事態だ

と言う。
これも世間のコンセンサスだろう。
これほど上がってしまうと、新発債の利払い増だけでも結構なインパクトになってくる。

とは言え、筆者はインフレ目標の安定した実現は容易でないと見ている。
というのは、目標とするインフレの対象は消費者物価指数だからだ。
消費者物価指数の広いバスケットにわたって価格上昇が起こるのはなかなか難しい。
そのためには、広い産業分野にわたって需給が引き締まらないといけない。
景況感が改善すれば供給サイドを引き締めるモチベーションはむしろ下がる。
需要サイドについても、それほど広い財・サービスで拡大が起こりうるか疑問だ。

1980年代後半のバブルの時も消費者物価指数はそれほど上昇しなかった。
この半世紀で起こった日本の高インフレは、オイル・ショックによる輸入インフレだ。
今、似たようなことを望むとすれば、資源価格が上昇するか、円安が進むかだろう。
前者は国益とはならず、後者も大きな議論を呼ぼう。

むしろ恐ろしいのは、株や不動産などの分野で資産インフレが高進し、バブルや格差が意識されるようになるシナリオだ。
果たして日銀は適切なタイミングで緩和を縮小できるだろうか。
試みれば相当な風当たりを受けることになろう。
昨日の友は「明日」の敵といったところだ。

最後の疑問は、金利上昇で株や不動産は下落するか。
おそらく、少なくとも短期的には下落する。
その後は、予見しがたい。
債券と株が下がった中、円の下がるトリプル安が起こり、最悪のシナリオを迎えるのか。
心を決めてダラダラと量的緩和を続ける場合、円建てでの価格下落が起こるのか