【書評】ドルへの挑戦 – Gゼロ時代の通貨興亡

著者は、日本経済新聞で専務執行役員主幹を務めた岡部直明氏。
国際通貨制度の変遷と将来を描いた本。

元記者・コラムニストの書いた本だけに読者を楽しませる。
ブレトンウッズ体制の成立からニクソンショック、プラザ合意、アジア危機、リーマン危機後までを物語のように語る。
本書の主題は言うまでもなく「ドルの時代は終わるのか」である。

G20時代は、米国主導のG7では世界経済の危機管理も国際政治の運営もままならなくなったことを示している。
それは、米国一極時代の終わりを象徴する国際システムの大転換といえる。
米国が何もかも抱え込む時代は終わったのである。

トリフィンのジレンマが続くなら、基軸通貨としての米ドルはファンダメンタルズに問題を抱え続けることになる。
リーマン危機直後、仏サルコジ大統領(当時)が「ドルはもはや唯一の基軸通貨ではない」と語ったのは記憶に新しい。
しかし、それではどの通貨が選択肢となりうるのか。
実務家が考えるのは
 ・円: 経済はいまだ順風満帆とは言えない。
 ・ユーロ: 構造的な問題を抱えている。
 ・人民元: 自由化が緒に就いたばかり。
と言ったところだろう。

岡部氏が比較検討するのは
 × 金本位制
 × ケインズが提唱した世界通貨バンコール
 △ IMFのSDR
さて、どれだけの現実味があるだろう。

経済のモメンタムから言えば、世界第2位の経済大国の通貨、人民元となるが、これにも「ドルの罠」がある。

中国が下落したドルを売れば、輸出に影響するとともに、外貨準備を目減りさせる。
ドル基軸を批判しながら、ドル基軸を支えざるをえないジレンマがある。

もちろん、同様の話は、中国と同じぐらい米国債を保有する日本にもあてはまる。

最近、Hayman Capital Managementのカイル・バス氏は中国が米国債を売る可能性を語った。
中国が金融システム立て直しの資金捻出のため米国債を売るという見立てだ。
こうした圧力は「ドルの罠」を無視させるほどの力を持つだろうか。

岡部氏は最後に

めざすべきは、『強い日本』ではなく『賢い日本』である
・・・
先進国最悪の財政危機にある日本に、安全のコストを超えて防衛費を増額するゆとりはない

と書いている。
現状の日米同盟を考えれば、足元で日本が米国と協調するのは当然のことだ。
しかし、米国はすでに沈みゆく運命の巨艦かもしれない。
そこに、船室まで浸水した日本が寄り添うことの意味を考えないといけない。