【書評】 国も企業も個人も今はドルを買え!

円安でV字回復には失うものはないのか

藤巻氏は、ハードランディング後、日本経済は円安によって大復活すると書いている。
そうした効果は否定しないが、あまりにもいいことばかりを書きすぎている。
円安には一方で大きなマイナス面がある。

藤巻氏は製造業・農業が大復活すると書いているが、金融業と違いものづくりには時間がかかる。
外資系金融機関なら、日本が儲からなければ東京を閉め、良くなったら戻ってくることも可能だ。
しかし、ものづくりの場合、円安だからと言って、簡単を戻せるものでもない。
ハイパーインフレの中、そもそも事業者は生き残れるのか。
仮に製造拠点を国内に戻せたとしても、賃金は本当に上がるのか。
輸入物価上昇に負けるような賃金上昇なら実質賃下げと言うべきかもしれない。
実質賃上げなら、日本の国際競争力は悪化してしまう。

こうした諸問題への説得力のある説明がなければ、安易に肯定できる話ではない。
他人(政府)は厳しく批判する一方、持論にはひどく甘いと見えてしまう。
こうした姿勢はかえって持論を危うくするものだ。
書籍による表現は、国会の答弁とは大きく性質が異なるはずだ。

新自由主義的な考え方にしても同じだ。
そうした考えを主張するなら、なおさらマイナスとなる人たちへの配慮が必要なのではないか。
外資系金融機関ならば、従業員はしくじれば失業・転職する覚悟を持って務めている。
しかし、国民のほとんどは国を変わるという選択肢を持たない。
そうした違いへの配慮がなければ、どんな意見も聞き流されるだけに終わってしまう。