【書評】日銀と政治-暗闘の20年史

朝日新聞記者 鯨岡仁氏が上梓した日銀の20年史を綴った本。
橋本龍太郎内閣、松下康夫 日銀総裁時代以降の日銀と反日銀の識者、政治とのせめぎ合いを取り上げている。

日経、朝日で記者を務めてきた著者の文体は躍動的だ。
読みやすく、読者の興味を掻き立て、説得力がある。
密室の会談や機密性の高い電話まで、見てきたように書いている。
読者はテレビ・ドラマを見るように楽しむことができるだろう。
同時に主要新聞なみの信頼性が担保されているのだから極めて貴重な情報と言える。

帯に極大の文字で「デフレ全史」と書かれているように、本書は日本におけるリフレ派の歴史を著したものと言える。
白川総裁時代以前の(日本にとってオーソドックスだった)日銀・財政当局とリフレ派のせめぎ合い、政治との距離感の変化を克明に描いている。
日本でリフレ派が異端だった時代から第2次安倍内閣で実権を握るまで、さらにその後の5年間がほぼスクウェアな姿勢で書かれている。

リフレ政策への疑問は尽きない

異次元緩和が失敗したとは言わないが、当初の主たる目標であった2%物価目標の達成のめどはたっていない。
リフレ派の金融政策の評価は、異次元緩和が出口を出た後にスクウェアに下されることになろう。

  • 物価目標は達成される時が来るのか?
  • コスト/ベネフィット分析をした上で金融緩和は物価を押し上げる有効な手段と言えるのか?
  • 物価が上昇すれば国民生活は豊かになるのか?
  • 実質賃金が基調的に上昇するようになっても、インフレは昂進しないのか?
  • 異次元緩和の出口で本当に混乱は起きないのか?

多くの人が、こうした点に疑問・不安を感じているはずだ。

滅亡したかつての正統派

本書を読んでいて不安を感じるのは、リフレ派勝利の後、かつての日本での正統派が本書で語られなくなっている点だ。
これは、リフレ派を描いた上での当然の帰結なのか、それともかつての正統派は絶滅したのか。
もしも後者ならば、今後の政策論議には危うさが付きまとうことになるのではないか。
すでに日銀がここまでお店を拡げてしまった以上、今後の金融政策がとりうる選択肢は多くない。
リフレ派であろうと、かつての正統派であろうと、歩みうる道に尖鋭な対立はないはずだ。
そうだとしても、リフレが正しいことを前提とするのか、そうでないのかは、さまざまな差異をもたらすだろう。

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