【書評】1985年の無条件降伏-プラザ合意とバブル

あるのは自国の利益だけ

ブラック・マンデーという「調整」の後にもう一度、資産市場は噴き上がり、そして長い停滞の時代がやってきた。
岡本氏は、プラザ合意を飲んでしまった政府・日銀の甘さを批判している。

「『国際協調というものはない。あるのは、自国の利益だけだ』というのが、アメリカでも、欧州でも、標準なのだ。
それを口には出さないだけなのだ。」

たしかに急激な円高に対応する目的でなされた1987年のルーブル合意後も、日本以外の各国は為替介入に本腰を入れることがなかった。
岡本氏は、プラザ合意が総じて日本にとって有害なものだったと括っているようだ。

輸出依存を抜け出せない国

本書は読者に考えるヒントを多く与えてくれる良書である。
そう断った上で、批判するのではなく、物足りない点を指摘しておこう。

1. 重商主義的な考え
全体を通して重商主義的な考えが底流にあるように感じられ、それは安倍政権の経済政策とも共通するところがある。
これは現実を見ればやむをえないとも言えるが、理想を失った見方ともとれる。
プラザ合意がなければ円高は進まなかったのか。
プラザ合意とは、世界の貿易不均衡のガス抜きの一手段にすぎず、プラザ合意がなくとも何かが起こり似たような結果が生じたのではないか。

2. ドル円による為替相場感
本書における為替の議論は一貫してドル円相場で語られている。
実質実効為替レートを見れば、感じ方が少し変わるかもしれない。

ドル円と円の実質実効為替レート
ドル円と円の実質実効為替レート
ドル円は上が円安、下が円高。実質実効為替レートは上が円高、下が円安。

1980年代から1990年代半ばまでの円高は確かに急なものだが、現在の水準についての感じ方は大きく変わるはずだ。
プラザ合意前に戻ったようにさえ思える点は留意すべきだ。
もちろん、実質実効為替レートは円高を看過する傾向がある。
日本経済が円高に順応することで、円高を円高でなくしてしまう効果がある。
しかし、それも含めて日本経済は進化してきたとも言える。

デジャブ?

本書が良書であるのは、有用な問題提起がなされているところにもある。
これも2つ紹介しておきたい。

1. グローバル化

もし仮に、トヨタとパナソニックが海外に本社を移すようなことがあれば、『日本経済』とは、いったい、何を指すのか。
プラザ合意は、現在の世界に、『国民経済とは何か』という根源的な問題を提起してしまった。

2. インプリケーション

(円高不況で)政府も経済界も、このままでは日本経済は沈没するのではないかと本気で心配した。
そこで政府は景気対策を矢継ぎ早に打ち出し、日本銀行は強力な金融緩和を実施した。
これは86年、87年の話だ。
しかし、どこかで聞いたような話ではないだろうか。