【輪郭】新たな緩和の言い訳を手にしつつあるFRB

7月31日のFOMCで25 bpの利下げが決定された。
市場予想どおりの利下げとなったが、2名が反対するなど、意見が割れたFOMCを印象付ける結果だった。

年初、経済も金融政策もいい状態にあった。
失業率は4%未満で、インフレは9か月間2%目標に近い状態が続いていた。
金利誘導目標は、中立金利の推計値の下限にあった。
年前半を通じて経済は健全なペースで成長し、雇用創出により失業率は半世紀での最小値に近いところまで下がっていた。

FOMC後の会見でのパウエル議長の発言だ。
この現状判断から利下げの必要性は感じられない。
唯一引っかかるのが近時のインフレの動向だったが、議長の発言からはさして問題視しているようには見えない。
FOMCが割れたのも当然のことだったのだ。

パウエル議長も、今回の利下げが保険的利下げにすぎず、本格的な利下げサイクルに入ったものではないと釘をさした。
それが市場の下落を誘ったのだ。

もっとも、市場の失望もやや行き過ぎかもしれない。
上記の現状判断には続きがある。

賃金は、特に低賃金の雇用において上昇してきた。
低所得・中所得のコミュニティで生活・就業する人たちによれば、就職に苦労していた多くの人が今では新たなよりよい人生を得るチャンスに恵まれているという。
このことが、景気拡大を持続させ、強い労働市場が取り残された人たちにも届くようにすることの重要性を私たちに強調している。

パウエル議長が格差の問題を重視する姿勢を見せたともとれる発言だ。
FRBのデュアル・マンデートとは完全雇用と物価安定。
文字面を見る限り、とてもマクロ的な指標のように見える。
実際そうだし、FRBに与えられた政策手段から考えても格差、あるいは分配の問題に対処するのは困難だ。

「重要性」が本音ならば、今後FRBは雇用の中身にまでコミットするということだろうか。
そうならば、FRBは再び金融緩和を強化する言い訳を得たことになる。
失業率から示唆される完全雇用はブレーキの理由にならなくなり、所得階層のすみずみまで強い労働市場の恩恵が及ぶまでアクセルを踏めることになる。

インフレが目標に達しないからという言い訳への風当たりは強い。
足元で利下げをすれば、もちろん景気を熱するだろうし、インフレにもいくらかプラスだろう。
しかし、十分にインフレ率が上がらなければ、今利下げした分、景気後退期に利下げする余地は小さくなる。
次の景気後退期まで見通した時、今利下げするほうがいいのかは判断できない。
金融緩和を求める人たちの中には、金融緩和によって景気後退自体を回避しろと言う人さえいるが、その実現可能性は極めて疑わしい。

インフレが理由にならないなら、他に理由がなければいけない。
ならば考えるべきはもう1つのマンデートである雇用だ。
ここに問題を見出し、金融緩和の言い訳にすればよい。
もしも、FRBがこんなことを考えているなら、米市場の投資家はジェットコースターのような相場を楽しめるかもしれない。