【書評】敗者のゲーム〈原著第6版〉(チャールズ・エリス著)

『敗者のゲーム』は機関投資家・個人投資家に対し「敗者のゲーム」に陥らず「勝者のゲーム」に挑むよう奨める本。
著者のチャールズ・エリスはグリニッジ・アソシエイツの創業者で、本書は投資家の多くが知る定番の投資本だ。

質問 あなたが投資するなら、どちらにしますか?
回答A 大幅に値上がりし何年間も高値圏にある株式
回答B 大幅に値下がりし何年間も低位にとどまっている株式


本書は、たとえばこんな問いを読者に投げかける。
この問いは個人投資家に向けられたものだが、機関投資家に向けて書かれた部分も少なくない。
プロ・アマを問わず参考になる話が多く盛り込まれている。

上記の問いであるが、プロのファンド・マネージャーの9割は回答Aを選んだのだという。
それを明かした上で、著者はこう書いている。

「ほとんどのプロと同じと聞いて安心?
とんでもない。
あなたが株の長期的な売り手でない限り、回答Aを選べば、あなたのプラスにはならない。」

種明かしに読者が納得するかどうかは別として、読者に考えるチャンスを与えてくれているのは間違いない。

(Amazon)

そもそも「敗者のゲーム」・「勝者のゲーム」とは何を指すのか。
著者はこれをテニスの試合についての研究を引いて説明している。

プロは得点を勝ち取るのに対し、アマはミスによって得点を失う

「得点を勝ち取る」とはアクティブ運用で勝つことを指している。
しかし、投資理論を見ても現実を見てもアクティブ運用で勝つのは分が悪い。
著者は、機関投資家の証券運用が「勝者のゲーム」から「敗者のゲーム」に変わったと説明する。
アクティブでは勝てないから、ミスを犯さないパッシブ運用に変わるべきというわけだ。
ミスを犯したものが敗者として脱落していく、これが「敗者のゲーム」だ。

本書では「個人投資家のための十戒」を記すなど、「敗者のゲーム」に勝つ方法、「敗者のゲーム」から新たな「勝者のゲーム」に移る方法が議論されていく。

最後に1つ興味深いトピックスを紹介しよう。

あらゆる投資家には1つの恐るべき、そしてあまりにも過小評価されている共通の敵がいる。
インフレーションという敵だ。

著者はこう指摘した上で「インフレのダメージ」と題する、インフレによる購買力の浸食を示す簡単な表を呈示している。

(出典: 『敗者のゲーム』)
インフレ率(%) 資産を半減させる年数(年)
2 36
3 24
4 18
5 14
6 12
7 11

 
日本人を長くやっていると、ささやかな手元資金がインフレで浸食されていくという危機感を持たずにすむ。
幸か不幸かこれがディスインフレというものだ。
しかし、国家はインフレを求めている。
しかも、実は2%より高いインフレを求めている節がある。
高インフレは債務者(日本で最大の債務者は国だ)にとって有利に働く。
もちろん、インフレで財政が再建されるなら、財政再建自体は国民にとって喜ばしいことだ。
しかし、マクロ経済スライドの下で年金はインフレ分の一部しか補償してくれない。

例えば5%のインフレとなったとしよう。
するとわずか14年で資産の購買力は半減する。
(言い換えれば、国家の債務も14年で実質的負担を減じる。)
51歳でなんとか20百万円を貯めて安心したのだが、65歳になったら価値が半分になっていたでは笑えない。

現在インフレのリスクはそう大きくないように思える。
しかし、その種(マネタリー・ベース)はすでにまかれている。
本書の原著第6版は2013年に発行された。
FRBがデフレの脅威と戦っていたさなかだ。
著者はその当時でもインフレのリスクが「過小評価されている」と記している。
少なくともリスク・シナリオに入れておくべきことなのだろう。

有名な本であり、多くの人がすでに読まれたことと思う。
読者の中にはあらたな「勝者のゲーム」についてやや退屈さを感じる向きもあるかもしれない。
本書はそれほど王道を説いているのだと思う。

定評のある本だから多くの図書館が所蔵していることと思う。
まだ読まれていない方は夏休みの読書にいかがだろう。