【書評】世界経済の大潮流

元三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト水野和夫氏による経済書。
成長への呪縛を解き放つべきとの主張が印象的だ。

(amazon)

経済や歴史の緻密な分析がすばらしい。
分析は1970年代後半から始まったグローバルで過剰な「蒐集」が3つの現象をもたらしたと指摘することから始まる。
 ・金融経済が実体経済に対して圧倒的な優位を持った。
 ・資源価格の高騰で限界利益が大きく増加しなくなった。
 ・労働の資本に対するバーゲニング力が弱く労働分配が増えない。

21世紀は超低金利の時代=「利子率革命」が起こったという。
この本の傑出したことは、利子率革命に対する解決策を
 欲は出すな
と言い切ることにある。
これはなかなか明言できることではない。

この諦観なしに企業が利潤を求めると、雇用や賃金が増えない構造に陥るという。

水野氏は21世紀に先述の利子率革命を含めて4つの革命が進行しているとする:
 ・貨幣革命: レバレッジでリターンをかさ上げしようとする。
 ・価格革命: 資源価格の非連続的な高騰。
 ・賃金革命: GDPが増えても労働者所得が下がる。

このような観察から導かれる興味深い提言がなされている。
GDPデフレータを内需と外需に分けて分析した上で

デフレから脱却するには原油価格が下がればいい
日銀は利上げをして、円高にすればいいのです
・・・
政府が本気でデフレ脱却を目指すなら、利上げをして、円高にすることで少しでも安く化石燃料を買うか、長期的には脱化石燃料社会を構築するしかないでしょう

なんというパラドックスだろう。
デフレは悪なのか、そうでないのか、そこまでさかのぼって考えさせる提言だ。

日本のソブリン・リスクと増税

最後に、この本でも日本国債について触れている。
日本国債のほとんどが国内消化だから大丈夫という議論を一蹴。
損をするのが自国民であるに過ぎないと書いている。
復興予算は国債で調達すべきではなく、増税を行うべきという。

成長を求めないあり方

本書の特徴的なところは、成長の限界が見えている時に無理な成長を求めるなと言い切っているところだと思う。

一歩先に進むのは一握りの人たちだけで、逆風はみんなが受けているような社会ならば、一歩先に進まないでみんなで同じ場所にとどまっていたほうがいいのではないでしょうか。

このような歴史観を述べる経済人は実は皆無ではない。
榊原英資氏の鎖国シンドロームしかり、
北野一氏のなぜグローバリゼーションで豊かになれないのかしかり、
(北野氏がJP Morganを退社され、氏のレポートを読めなくなったことはとても残念だ。)
ジム・オニール氏の日本はハッピーな不況を甘受すればよいしかり、
ウィリアム・ペセック氏の「日本流」を見直すべきしかりである。

それでも、政治家、経済学者、経営者らは「成長への呪縛」に囚われている。
そして「無知の知」さえ認識できていないのである。

経済

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