【書評】日本のマクロ経済政策

『日本のマクロ経済政策: 未熟な民主政治の帰結』は、熊倉正修 明治学院大学教授による、日本のマクロ経済政策、結果的に主に異次元緩和やアベノミクスに対する批判を書き連ねた本。

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この種の冒険主義と非合理主義は今日の日本の経済政策にも蔓延している。
安倍首相や黒田日銀総裁は主観的にはデフレや長期不況と闘っているつもりなのかも知れないが、これらはいずれも現状の不正確な理解にもとづく有害な戦いである。

「この種の冒険主義」とは、神風や大和魂で連合国に勝てるかもしれないと考えた戦前の日本の思考回路である。
不正確・不合理な理解によって戦争に突入した結果は、至極理屈どおりのものとなった。

とにかく辛口の本である。
歯に衣を着せぬ書き方で、日本のマクロ経済政策(通貨政策・金融政策・財政政策)の問題点を指摘していく。
本サイト読者なら多くはおなじみの論点であり、すんなりと入ってくるはずだ。
あるいは、結論において反対の考えを持つ人でも、多くの論点が論点として存在することは認識しているはずだ。

なぜ、そういう問題がいつまでも存在し続けるのか。
著者は、日本の民主主義が未熟なためと書いている。

筆者は必ずしもこの著者の考えと同意見ではないが、最近少々心配なことがある。
世の中のほとんどの人が、アベノミクスや異次元緩和が掲げた主要目標の多くが達成できないと考えている。
それでも誰もそれに関して何もしないように見える。
誰がやっても同じだから、野党にやらせるよりはましだから、ということなのか。
そうした思いは理解するにしても、野党を批判するのが好まれ、与党を批判するのは好まれないような世の中になるのは心配だ。

この本の難点を言うならば、2つの意味でカタルシスがないことかもしれない。

日本社会の特徴を考えると、日本が合理的な経済政策が行われる国に生まれ変わることは容易でなさそうである。

何かしら世の中を憂えている人は少なくなかろう。
そうした人たちは一縷の望みを持ちたいと考えているはずだが、この本のメイン・シナリオは《期待できない》というように響くのだ。

もう1つのカタルシス不在とは、投資家にとっての話だ。
著者が太平洋戦争の話を持ち出したのには明確な意図がある。
それは、将来投資家が最も警戒すべきブラック・スワンであるインフレの蘇生にかかわるものだろう。
戦前の拡張的金融・財政政策がインフレを助長するにはだいぶ時間差があったのだ。

投資家とは残酷な人種だ。
政治・政策が間違っていてそれが直らないと見れば、考えを切り替え、間違った世の中で自身がどのような投資をすべきかを考える。
インフレについて多くの人が意識するのは、高橋是清預金封鎖・新円切替・財産税であろう。
現在これからの時代のリスク・シナリオでは何が起こりうるのか。
これこそ多くの投資家にとって不安のタネの1つであるはずだ。
本書は(新書という制約もあるのだろうが)それを占うほどの定量性・ボリュームの情報までは与えてくれない。

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