【輪郭】東京オリンピックに沈黙するESGサポーター

最近とても理解しがたいことがある。
さかんにESG、ESGと叫んでいる金融・投資関係者が、その観点から東京オリンピック開催について目立ったメッセージを発しない点だ。

あいかわらず地球温暖化などの、ある意味使い古された安全なテーマについては威勢がいいのに、今そこにあるリスクについてはほぼ沈黙を保っている。
メリハリのある意見を表明しているのは三木谷浩史氏や孫正義氏ぐらいだ。

何も東京オリンピックに反対しろというのではない。
投資家もきちんと議論すべきといっているのだ。
日本のパンデミックがまだ「緊急事態」にある中で、2か月後に世界からお客さん(アスリートと関係者)を集めてイベントを行うというアンバランス。
この問題は日本人にとっての環境(Environment)、社会問題(Social)、主催者のガバナンス(Governance)そのものだ。
そして、莫大な開催費用の少なからぬ一部は資本市場から調達されている。
これをなぜESG投資の推進者の皆さんは課題と認識し、見解を述べないのだろう。

頭から東京オリンピックがESGに反するというのではない。
しかし、かりにESGの観点から問題があるなら、モノを申すべきであり、改善がなければ、資本市場は国債、都債、スポンサー企業発行の株式・社債への投資・引き受けを取りやめるのが筋だろう。
それこそESG投資の王道であるはずだ。
上記のような投資先に大きなポジションを有している機関投資家は、なぜ東京オリンピック開催がESGに適うのか、正々堂々議論すべきだ。

ESG投資を推進する人たちの本気度が試されている。
仮にこのまま沈黙し、開催を是認するなら、彼らが提唱しているESGとは

  • 見せかけだけの欺瞞・きれいごと
  • 自分の好きなテーマだけを扱うご都合主義
  • 権力に命じられたESGだけをやればよいというのが本音

とのそしりを甘受せざるをえまい。
残念ながら、筆者は、彼らの本気度について現時点でかなり悲観的な見方をしている。


弊社は国債・都債を保有していない。
保有株式の中に4銘柄ほどオリンピックのスポンサーになっている企業がある。
このまま何のアクションもないなら、ポジションを閉じる予定だ。
おそらくそうなるだろう。
いずれもお気に入りの銘柄だっただけに残念だ。


山田泰史山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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