【輪郭】リスクオンを予想し、運命を分けるリスクオフが到来する

市場はウクライナ紛争を消化しようとしているように思える。
(この記事は弊社 山田のツイートを再構成して掲載しています。)

今でも米市場恒例の《最後のひと上げ》の可能性が小さくないと考えている。
パンデミック以降の上昇を1つの景気・市場サイクルと見るなら、利上げが開始された今は景気サイクルの終盤となる。
米市場は利上げ後、景気後退の前に大きめの《最後のひと上げ》を演じる経験則がある。

この時期は決して日本株にとっても悪い時期ではない。
経験的に、景気回復や利上げが米、欧、日の順で鮮明となることが多く、結果、円安が進みやすい。
世界経済の回復と円安により、世界景気への感応度が高い日本株は全体としては上がりやすい。
この局面での円安は前向きにとらえている。

ウクライナ紛争がどうなるのかは予想しがたい。
簡単・短時間で解決するような話ではない。
だらだらと長く続く可能性も大きい。
しかし、(不謹慎な言い方をお詫びするが)この戦争は日米にとって切実・深刻ではあるが、遠い戦争でもある。
過去の例のように、戦争は市場にプラスに働くことも多い。
ロシアが日本に侵攻したり、米ロの軍事衝突の可能性が高まったりしない限り、日米の経済・市場への影響は(小さくはないが)大きくない。
ウクライナ情勢がたとえ悲惨なままでも変化のないものとなれば、日米の市場はしばしウクライナを忘れるかもしれない。
その時、金融環境は相当に緩和的なままである可能性がある。

円安スパイラルの脅威

賃金が低迷する日本では、今や円安は手放しで喜べることではない。
しかし、前回日銀がブレーキを踏んだのは125円。
日銀の見方を信じるなら、円安はあと少しだけ許容範囲が残されている。

問題は《最後のひと上げ》の後にやってくるであろう景気後退局面だ。
ここでさらに円安(ドル円、実質実効為替レート)が続くなら、問題だ。
日本人はどんどん貧しくなっていく。
円建てで貧しく、為替でさらに貧しくなっていく。
次の本格的なリスクオフ局面で、再びこれまでのように円高方向に反転すると望みたい。
もしも反転しなければ、ついに金融・財政政策の行き過ぎがもたらす悲惨な結末が来るのかもしれない。

輸入インフレが国内に波及し、ついに日本人の期待インフレを引き上げ、定着させる。
一部で名目賃金も上昇するだろう。
賃金上昇が、生産性上昇のための投資を促す。
生き残る労働者の賃金は上昇するが、一方で職を失う労働者も増える。
割を食う労働者は職・待遇の変更を受け入れるが、賃金はガタンと下がる。
結果、賃金上昇の幅・広がりは小さく、マクロでは実質賃金が低下する。
これが実体経済にとっていいはずがない。

政府、日銀、民間の誤解の連鎖

過去、政府は金融緩和によって経済の進化のための時間稼ぎをしてくれた。
経済は一息つき、そして危機感を失った。
人々は悪しきサイクルに陥らないための進化を怠り、一息つかせてくれた政府・日銀に拍手喝采する者さえ少なくなかった。
拍手喝采を浴び、政治家は政策が上手くいっていると勘違いしてしまった。
あるいは確信犯だった。

金融市場では、財政の制約から名目金利は上げられない。
インフレはじりじり上げ、高止まりするが、名目金利にはキャップが付される。
ディスインフレの時代なら、名目ゼロ金利でも実質金利のマイナスは小さなものだった。
しかし、インフレが1、2%・・・と上昇していけば、あるいはそう予想する人が増えれば、実質金利のマイナスが耐えがたくなる。
これこそリフレ派が求めたシナリオだ。
人々は支出を増やすはずだった。

現実にはインフレ期待が高まると、人々は将来不安を高め、支出を増やすこともできない。
実質金利は大きなマイナスだから、誰も国内に貯蓄・投資しようとしなくなる。
少しでもまともな実質金利、あるいは経済成長を見込める海外に目を向けることになる。
それがまた円安要因となる。

神の見えざる手より人間は賢いのか

実質金利が低下するから金融緩和が強化されるとのもくろみはあてが外れる。
円安のメリットはインフレの需要破壊によって相殺されてしまう。
実質金利低下が刺激するのは国内経済でなく、海外経済にとどまる。

コインの暗い側だけを列挙すればこうなる。
決まった未来ではない。
しかし、こうした暗いシナリオの蓋然性が時間とともに高まっているように思える。

とりわけ政治家が形を変えて経済を操作しようとしているのが心配だ。
(彼らは概して最も商売を知らない、あるいは無視したがる人種の1つではないか。)
刺激策にしても分配にしても、市場本来の機能に不全をきたす作用がある。
もちろん市場は失敗する。
しかし、経済を操作しようとするならば、失敗している箇所をピンポイントで狙い、有用な市場の機能を阻害しないようすべきではないか。
例えば、経済の新陳代謝の邪魔をしないようすべきではなかったか。

日銀は身動きが取れない状況に

日銀の働きぶりは決して悪くなかった。
白川総裁はいくつも新たな政策を開始したし、黒田総裁はその規模を拡大し、さらに新たな実験的な政策を導入した。
異次元緩和スタート後2-3年が経ち、一定の結果を上げた一方、先も見えた時、日銀はしたたかにこっそりと大きな方向転換を終えている。
問題があるとすれば、それ以降の7年ほどであり、ここに新たな工夫はあまり見られなかった。
これは日銀だけの問題ではなく、むしろ政治の問題だった。

異次元緩和が大成功なら、ほどよい円安、ほどよいインフレ、ほどよい成長(含む労働分配)が得られたはずだが、主に実現したの円安だった。
一方、政策のコストとして、日銀は大きなバランスシートを抱えることになった。
ほどよいインフレ・成長が進むなら、将来必要となるバランスシート縮小はその分少なくて済む。
あるいはうまく財政再建が進むなら、それもバランスシート縮小の助けとなる。
しかし、いずれも目覚ましい改善は見られない。
これらの課題は(特にインフレを除けば)一義的には日銀の責任とはいえないところがある。
政治が十分なパフォーマンスを上げない中で、日銀は身動きがとれなくなっている。

明るい話から一転、とても暗い話になったが、これは決まった未来ではない。
(ただし、少なくともかなりの可能性があり、日々高まっていると考えている。)
投資家は、コインの両面を見据えて行動したい。


山田泰史山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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